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#3 終末の唄

 黄昏の英雄、ルイス・バーンの英雄伝にこんな一文がある。
 『その娘は足音も立てずに背後に忍び寄る闇と死の御使であった』と。

 ルイス・バーンは竜に匹敵する身体能力と鋼鉄の如き精神力を誇った無敗の勇者だったが、結局原因不明で死亡した、と言われている。
 死の直前にルイスが頻繁に示唆していたといわれているのが、死神の存在だ。
 

 いわく、自分の背後には自分以外の目には見えない死神がいる、と。

 曰く
 夜闇に匹敵する漆黒の外套に眼窩から除くアメシストの瞳
 地獄の底から響くかのような冷えきった声に感情を感じさせない人であって人でない表情

 それは、人の形をした運命、らしい。
 死期に近い者が出会う避けようのない『運命』

 それに出会った時、人は己の人生を懺悔する機会に恵まれる。
 通常突然訪れる死と向き合う時間を得られるその機会は千金に匹敵する価値があるだろう、と。

 そして逆に僕は思うのだ。
 僕はその機会を有効に使えるだろうか、と。



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#2 終末の唄

 至極平凡な家庭だった。
 遠縁近縁問わず近隣住民に至るまで全てが全て型に嵌めたように平凡な村だった。英雄がいない代わりに極端な悪人もおらず、時代が時代だったからさすがに平和にとは言わないが、みんなそれなりに平坦な人生を各々の歩幅で歩んでいた。

 ただひとつ、僕が生まれたことを覗いて、僕の村は量産された鍋みたいな何の変哲もない村だった。

 僕はいわば、真っ白な羊の群れに生まれた一匹の黒い羊だった。
 周りは誰も気づかなかった。
 自分だけが気づいていた。
 自身が群れの中で異端である事を。
 そして自分が、いつか『台無し』にされる運命にあることも。

 人は僕を、人類第二位、 全てを超えし者、白羊に混じる一匹の黒羊、ハイン・ブラインドダークと呼ぶ。


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#1 終末の唄

 昔からうまくできすぎだと思っていた。
 幸運の総量が人によってそれぞれ決まっているとするのならば、僕は生まれた時点でその幸運を使い切り、それ以降この世のありとあらゆる不幸を煮詰めた地獄の坩堝を生きる事になっただろう。

 子供の頃から思っていた。

 こんなのおかしいと。

 物心ついた頃から恐れていた。

 いつか必ず自分ではどうにもならない災いによって人生が台無しにされると。

 毎晩ろくに眠れなかった。目をつぶっていても感じられるその災禍の足音は常に僕の精神をぎりぎりと締め付け、それでいてその姿を僕の目の前にはっきり表す事もなく、僕は常に目の見えぬその敵を相手に戦わなくてはならなかった。

 そして皮肉な事に、僕はようやく実態を持った死神が目の前に姿を表したことによって、久しぶりにぐっすり眠る事ができたのだ。


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#0 終末の唄

「貴方は近いうちに死にます」

 唐突に僕の部屋に現れたその少女は厳かな表情でそう宣言した。

「ああ……とうとうその時が来たのか」

 その唐突な宣言に、僕は悲しみも怒りも覚えなかった。ただ、ああそうなのかと、自分の運命が、実感としてすとんと入ってきただけだった。自分でも驚くべき事に。

 思えば僕は生まれてから今までその時を待っていたのかもしれない。

 この世のものとは思えない美しい少女だった。頭をすっぽり隠す漆黒のローブに、その奥にシンシンと輝く深紫の瞳。その表情は、人間の顔はこのような表情をする事もできたのか、と思えるような『無』の表情。
 並大抵の事では驚かないと自負している僕を持ってさえ感情を動かさずにいられないそのオーラは正しく『人』の領域を逸脱しているように見えた。

「名を教えてくれるか?」

「リリィ」

「そうか、僕の名前はハインだ。多分短い間になるだろうがよろしく頼む」

 僕は時が止まったかのように動かないリリィの右腕を強引に取って、しっかりと握手をした。
 その手はこの物騒な時代にもかかわらず、まるで今『発生』したばかりであるかのように、傷ひとつなく何かの拍子に粉々になってしまいそうな程華奢だった。

ふと気づくと

ふと気づいたら前回更新から3ヶ月たってる。
時間経つの早すぎです。。
休みがないとなかなか書けないのが辛い所。
テキストエディタ開いてうだうだ書いてやっぱりこんなんじゃダメだと閉じる日々
没だけが溜まっていきます。
要努力です。

毎日書いてる人すごいなぁ

第五十一話:黒紫色の理想

 シーン・ルートクレイシアは優秀である。
 容姿端麗、文武両道、多芸多才で数値的なパラメータはもちろん数値に現れない面においても極めて優秀である。
 公爵という極めて位の家に生まれた血筋、何が起きても動じない強靭な精神力に敵となったものに容赦しない冷徹さ、どうやって集めたのかわからない莫大な知識に民を魅了するカリスマ性、絶世の美女と優秀な騎士との間に生まれたその才覚は他領の同年代の貴族の子息と比べても圧倒的にずば抜けている。その事実にはいっぺんの疑問も挟む余地はない。

 もしその力を正しい方向に使えば、シーン・ルートクレイシアは稀代の英雄になれただろう、と思う。

 たった一つ、たった一つ欠如していた感受性という問題さえ無ければ、だが。


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