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第五十七話:黒紫色の理想

「シーン様、悪魔の軍勢がルートクレイシアに向かって進撃を始めているという報告があがりました」

「ん……あー……ん? ん、ああ……え?」

 唐突な報告だった。
 あまりに焦りのない口調に初めに耳を疑った。

 自慢だが、俺の耳はいい。すごくいい。その事に絶対の自信を持っている。
 にも関わらず、俺は一瞬その言葉が何かの間違いであるかのように感じてしまう程に、あまりにその口調に緊張感がなかった。
 まるで今日の天気について話しているかのように。

「数はおよそ五千から六千。高い飛行能力を持つ翼竜型、地上での移動能力に優れた獅子型の混成軍です。移動速度は極めて高く、三十分もあれば最も近い村まで到達するでしょう」

「へー」

 仏頂面でシルクが報告する。
 ならば、と棒読みで応える。やる気ねえなこいつ。

 しかし……三十分か。そりゃ早い。電撃作戦だな。

 報告が間に合ったこと自体が奇跡に近いだろう。
 悪魔はベースの形によって大体の戦闘能力が決まる。竜と獅子ならその戦闘能力も相当なはずだ。少なくとも碌な防衛能力を持たない村など数瞬で消し飛ばされる程度には。

 本当に久しぶりだ。向こうから攻めてきたのは二年ぶり二回目か。
 久しぶりでも全然嬉しくないのだが。

 膝の上でぐでーっとだらしなくたれているアンジェロの黒髪を撫でる。
 手を動かすとその度にアンジェロが艶めかしいうめき声を上げる。
 誤解のないように言っておくが、俺はまだ何もしていない。
 最近は何もしてないのにこんなのばっかりだ。

「ん……あぁ、しーん様ぁ、もっと、もっとおねがいします」

 物欲しそうな声は完全に溶けていた。

「悪魔……悪魔ねぇ。おいアンジェロ、お前武官なんだから、ちょっと行ってぶっ殺してこい」

 アンジェロの動きが一瞬止まるが、何事もなかったかのように無言で頭をぐりぐりと胸に押し付けてくる。
 宥めるように頭を撫でた。

 ここしばらく放っておいたせいか、言う事を聞かない。

 その挙動からは珍しい事にやる気が一片足りとも感じ取れず、シルクがじどっと湿度の高い視線で垂れアンジェロを見下している。

 無理ない事だ。
 元々国防は武官の重要な役割であり、報告も本来ならシルクではなくアンジェロがやるべき責務だ。
 公私はきっちりつけようや。社会人だろ。

「……シーン様、遊んでないでさっさと片付けていただけませんか?」

 シルクが非難するような目つきで俺を見る。
 おいおい、まるで俺がサボっているかのようじゃないか。

「んー……そうだな。翼竜型と獅子型じゃ別に生かしておくメリットもないないだろうし……それに……アンジェロ? そろそろ報告してくれないか? 何かあるんだろ?」

「……もうちょっと、もうちょっとだけ、いいですか?」

 あ、ちょっと正気に戻った。

「ああ」

 思わず許可してしまう。

「ありがとうございます」

「ああ、じゃないですよ! ああ、じゃ! アンジェロもいい加減にしなさい!」

 シルクが切れた。

 無理やりアンジェロの腕を引っ張って引き離そうとする。
 アンジェロが剥がされまいと俺の胴に腕を回す。
 力自体はアンジェロの方が強いわけで、シルクが全力で腕を引っ張っているが、全く歯が立っていない。
 
 やれやれ。
 遊んでる場合じゃないってのに。
 もうちょっと真面目に考えて欲しいところだ。

 アンジェロの髪を手櫛で梳きながら、遠視の術を唱えた。
 視界が分割され、上空に飛ぶ。
 遥か地平線の彼方に黒い霧のようなものが見えた。
 視界をその方向に飛ばす。あっという間に形がはっきり見れる距離まで来た。

 あー、めんどくせー。

 アンジェロの頭をぐりぐりと撫でる。アンジェロが嬉しそうに顔を押し付ける。
 俺はこんなにも平和を愛しているというのに……

 視界を少し絞る。怒涛の速度で進撃を進める悪魔の醜悪極まりない顔かたち表情がはっきりと見れた。
 悪魔は大体黒い。とにかく黒い。低レベルの悪魔程黒い傾向にある。
 強ければ強いほど別の色が入る。一番色に富んでたのは魔王時代に遭遇したおっさん型の悪魔だった。名前はなんて言ったかな……ペ……ペ……ペリアル……だったっけ? 
 ペリアル。ああ、そうだ。ペリアルだったような気がする。いい線いってるような気がする。
 天使の方は覚えているんだが……悪魔はおっさんだったからなあ。

 翼竜型と獅子型は悪魔の中ではそこそこの位にいる。
 だが所詮は数で攻めてくる程度の悪魔。有象無象に過ぎん。
 小さな村ならともかく俺と戦うには『闇耐性』が足りていない。
 襲ってくるなら消すだけだ。

 そして俺は、特に何の感慨もなく、久しぶりに力を行使した。

 多重詠唱『EndOfTheWorld』

 口内に小さな熱が奔り、つつーっと一滴の血が唇の端から流れる。

 対象は数千の悪魔。高速で移動中だが、動いているなら進行方向全てを対象に殲滅するだけだ。
 地面に光の点が無数に発生し、点滅する。地を疾走する獅子型がそれに気がつくが、気がついてももう遅い。密集して疾駆するその陣形は俺に殺してくださいと頼んでいるようなものだ。

 そして、数秒持たず、破壊が発生した。

 悪魔の数がまるで消しゴムで落書きを消しているかのように減っていく。
 その絶命の音は数百キロ離れたこの地までは決して届かない。
 もともと音なんてしないけど。

 点を置く。点を置く。点を置く。
 直線上の敵が消える。消える。消える。
 それの繰り返しだ。黒いクレヨンで絵画を塗りつぶすかのように造作もない事だ。
 痛みすら感じていなかったに違いない。
 数分もせずに悪魔の軍が綺麗サッパリ消え去った。
 黒い軍勢はもはや一匹たりとも残ってない。
 先ほどまで砂埃を上げて走っていた平野には、もはや静寂しか残っていなかった。

 飛ばしていた視界を閉じる。
 ゴミみたいな経験値が入ったのを感じた。
 一息つく。減った魔力はすぐに全快するが、心臓がやや鼓動を早くしている。

「おい、アンジェロ」

 俺の言葉でアンジェロとシルクの動きが止まった。
 アンジェロは両腕で俺を捕まえままで。
 シルクはアンジェロを引っ張ったままで。

 アンジェロが顔をあげ、その視線が俺の顔をなぞる。そして、唇の端で止まった。
 シルクが先ほどまでとは打って変わった険しい表情で俺の顔を見つめる。

「……シーン様、それは……」

「舐めろ」

 血がゆっくりと顎を伝わり垂れる。
 アンジェロは、ぼうっと魅せられているかのようにそれを見ていたが、やがてゆっくりと顔を近づけた。





第五十七話【死神とターゲットの話】




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第五十六話:黒紫色の理想

「はぁはぁはぁ……一体どういう事だ! 何で君がここにいる!」

 黒髪の十代中頃くらいの少年が、肩で息をしながら鋭い視線をこちらに向けてくる。
 魔術師が好んで身に付ける漆黒のローブに、右手に握った精霊魔術の威力を上げる精霊樹で作成された身の丈程の杖は、駆け出しの冒険者ではとても手の出ない高価なものだ。
 その佇まいは魔術師にして、まるで一流の騎士のように隙がなく、また腰に差された一振りの剣からはその少年が魔術師にして肉弾戦も行える事を示している。

「……」

 私は無言で、『制裁の鎌』を掲げた。
 少年が息を飲む。
 さすがギルドのランカーだけあって佇まいは間違いなく一流だ。だがレベルは私程に高くない。
 スキル・レイはジャミングされていて効かないが、世界がその事実を私に教えてくれる。
 レベル差で押しきれるはずだ。もちろん油断はしない。

 私は、特に何も考えず、制裁の鎌の力を発動させた。

 『縛る光』

 鎌の能力が発動する。
 漆黒のブレードが黒紫色に発光する。冥界の光は太陽の光程に眩しくはない。が、その光は太陽の光と違って人間にとって身体を縛る毒だ。

 生命ある者全ての動きを束縛する死神の毒。
 浴びたものをステータス異常『行動不能』に至らしめるそれは私が使用する事を許された数少ない力だった。
 光の発生は主に、能力の顕現時の効果|《エフェクト》であるこの世界の法則からしてみれば、光それ自体に縛る力があるこの能力は初見殺しに近い。

「……」

 だが、並の人間なら間違いなく対応出来ないはずのそれに対して、少年がとった行動は迅速だった。
 いや、私が鎌を掲げた瞬間から、まるで私が何をするのかわかっていたかのように――
 少年は懐から白い珠を取り出し、力の発動と同時に地面に叩きつけた。

 鎌の光とは比較にならないくらい強烈な白い光が発生する。
 『縛る光』の効力はその光に付随する。浴びれば抵抗できないがわかっていれば対処は簡単で、光を遮りさえすればその能力を身に受ける事もない。
 私は慌てない。レベル差は歴然だ。殺れると思ったから襲ったのだから。

「……逃がさない」

 『縛る光』を解除する。
 光に眼が眩んだのは一瞬。
 標的の背は壁、唯一の抜け道は私の後ろしかない。
 逃げられる場所などどこにも存在しない。
 身体が世界にアシストされ勝手に動く。脚が勝手に床を蹴り、視界がコマ送りのようにゆっくりと流れる。
 標的は当然構えていた。だが、私の速度に対応出来ていない。光は自身の眼も同時に眩ませており、そして私と標的に速度の差は大きかった。
 私は、大振りに鎌を振り上げ、全速で鎌を少年の頭の上から叩きつけた。
 その速度は到底少年に対応できるレベルのものではない。

「くっ……」

 その時、少年が急に力を抜いて体勢を崩した。
 それによって、身体が右に大きくずれる。

「っ!?」

 一瞬脳内に空白ができる。
 手は止まらない。
 目測がずれ、身体を幹竹割りするはずだった刃の軌道がずれる。命を刈り取る威力だったはずのそれは、軌道がずれ、左手を切り飛ばすにとどまった。
 と同時に、横から見えない何かがぶつかってきた。

「ぐっ……」

 中空に飛んでいた故、そして攻撃の瞬間故に、回避行動を満足に取れずに、壁にたたきつけられた。
 轟音。
 かなりの衝撃だったらしく、壁に罅が入り身体が半ばめり込む。
 が、私にダメージを与えられる程ではない。

 だが、発生した隙は大きかった。
 物理法則に身体を束縛され、反応が一瞬遅れる。
 その隙に、少年は満身創痍ながらも驚異的な精神力で術を完成させていた。

「はぁはぁ……ぐぅ……くっ、空の空、蒼天の鎖よ、高き天より招来して汝を縛る楔となれ、『空の監獄』」

 魔術起動時に発生する独特の違和感が周囲を満たす。
 身構えた瞬間、脳裏に閃光のように光景が奔った。

「ヒッ!?」

 反射的に出た短い悲鳴。
 その時私の頭によぎったのは、目の前の魔術師が使用した魔術に対するいかなる感情でもなかった。
 私の頭によぎったのは、数カ月前に受けた闇の部屋での一幕だ。そのせいで反応がさらに遅れる。

 空気が色を持ち、質量を持った。
 身体全体に重圧がかかる。ステータスに行動不能が付与された事を感じる。
 束縛系の術だ。しかも束縛系の術は数あれど、全てのステータス異常に抵抗を持つ私を縛れるという事は相当上位の術だろう。

 背を圧迫する壁の感触。縫いとめられているかのように、身体は重力に逆らってその場にとどまり続けている。
 右腕を動かそうとする。動く。動くが、それだけだ。身体は宙に浮いたまま。まるで空中に縫い止められているかのように。

「はぁはぁ、はぁはぁ、ぐ……ぼ、僕の腕……腕が……ああ、くそっ、一体何がどうなっているんだっ!! 何故君が、僕を狙う!」

 切断された腕をまるで大事な物でもあるかのように残った腕で抱きかかえるその姿は滑稽だ。
 いや、これが本来あるべき姿なのか。

 腕を抱える少年の姿。
 また不意に風景がフラッシュバックする。

「う……あああ……」

 頭を抑える。身体が理由もなくがたがたと震えた。
 恐怖と同時に湧き上がる殺意が頭の中をコトコトと煮込む。
 ありえない。ありえない。ありえない。もう恐怖は克服したはずだ。

「何故だ、何故君が僕を狙う!! まだ、君はやるべき事をまだやってないはずだ! こんな時期に君がここにいるはずがない! Killing Field!」

 少年が青ざめた顔でこちらを睨みつける。
 これ以上言わせちゃいけない。何故かそう思った。

 だが、身体は思った通りに動かない。硬い空気が私の動作の邪魔をする。
 踏み込みがうまくできない故に攻撃は全て見当違いの方に飛んでいき、当然少年には当たらなかった。

 そして、その黒髪の少年は、言ってはならない言葉を――

「だって君は、まだ、シーン・ルートクレイシアを、殺せていないだろ!」






第五十六話【最悪のゲームの話】
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走れる時に走ろう!

駆け足で更新

てことで黒紫色の理想55話でした。

今まで溜めていた設定を出す。
昔に書いたものなので若干忘れている所があったりする。
特にストーリーに関係ない設定は忘れがち。
散々年数かかってるのでとりあえず終了目指して書こうと思っていた一部を削って
さっさと完結目指そうかな。。。

四年以上前だよ……これ始まったの

対人族・魔族編
対悪魔編
対バグ・システム編

第五十五話:黒紫色の理想

 最近多いな……




 俺は、首を傾げながら書類を捲った。
 ルートクレイシア領の一年の収支がまとめられている紙だった。
 税金を思いっきり上げたがそれほどひどくない。元々そんなによくなかったし、最低限の食料は国で配布するようにしたため、まぁこんなもんだろう。

 騎士団を全員クビにしたため金はむしろ余っている。
 足りない分は俺自身で適当に属性武器でも作って稼げばいい。

 税金を上げたことによる領民の労働意欲だけが問題だが……心配はいらないだろう。誰でもない、この俺のためになると考えれば誰もが過労寸前まで働くに違いない。俺のために生きて俺のために死ねるなんてそんな幸せな事はないだろう。
 まぁ俺の寿命は後十年ちょいだし、最悪そこまで持てば後はどうだっていいんだが……。

「はぁ……『虚影骸世』」

 自分の世界を広げる。
 消滅対象は扉の外にある"気配"だ。
 俺の世界は音もなく浸透し、壁を通り抜けて扉の外をその範囲内に収める。

 悲鳴一つ起こらず、気配は消え去った。
 証拠もない。塵一つない完全な消滅。もしかしたら魂すらもはや残っていないかもしれない。

「やれやれ、馬鹿の一つ覚えみたいに次から次へと送り込んで来やがって」

 しかも雑魚ばかりだ。

 最近ルートクレイシアには、敵意を持った侵入者が大量にやってくるようになっていた。
 一体何が原因なのかわからない。
 元々侵入者は少なくなかったが、最近では特に多い。まさに入れ食いと言えよう。

 屋敷の範囲に張られた結界は俺自身が張ったもので、非常に秀逸だ。侵入者が入ってくればすぐに分かる。だが、一つだけ弱点があって、この結界、相手が男の時にしか働かないのだ。ちなみにこれは、男の侵入者は問答無用で死刑だが女の侵入者に対しては顔を見るまで処置を保留するという我がルートクレイシアのスパイ防止法に基づいている。女の侵入者なんてそうそういるもんじゃないが、実際の侵入者は俺が把握している以上に多いのだろう。

 この屋敷に見られて困るものなんてないのだが。

「ちょっとしたスパイスのつもりで探知系の結界にしたのはまずかったかな……んー……でもリトリみたいなのが入ってくる可能性もあるしなぁ」

 男だけに対する障壁を張るか?
 そんな結界俺が知る限りでは存在しないから、自分で開発するかあるいは調べる必要がある。面倒だ。もとよりたかが男に対してそんな努力する気になれない。

 まぁでも、そろそろ探知|《サーチ》はやめて障壁|《バリア》系の結界に切り替えてもいいかもしれないな。

 俺は首を傾げながら方針をやや修正する。
 最近、シルクやアンジェロの相手をすることが少ない。
 俺自身忙しいせいもあるのだが、反抗的な者ばかり嬲っていたせいでもあるだろう。反省すべき点だ。陵辱も嫌いじゃないが、純愛も全然いける。
 奴隷をかまうのも主人の権利であり、大切な義務でもある。
 外来ばかりかまっていては忠誠心も下がるってもんだ。

 収支報告書に、受領の印鑑をペタンと押した。

「はぁ……切り替えるか……」






第五十五話【障壁とレベルと部下たちの話】


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第五十四話:黒紫色の理想

 長い長い間生きてきた。
 その間わかったこともある。

 人は……愚かだ。

「ルートクレイシア……ですか?」

「ええ……ルークさんとの依頼の中で出てきたのよ。何か知っている事ある?」

 丁重にルークに退出願った後、食堂で久方ぶりの食事を取りながらアシュリーに尋ねた。
 世俗から離れて長い事たつ。特に最近のニュースには疎い。
 当然であるかのようにルートクレイシアなんて単語を出されても全く思い当たる節はなかった。

 フォークでくるくるとパスタを巻き、ずずーっとろくに咀嚼もなく飲み込む。
 喉に詰まりそうになって、慌ててピッチャーに入れた水で飲み下した。

「ええ……何かわからないんだけど……そこの公爵の息子を殺してほしいらしいのよ」

 テーブルには、所狭しと大量の料理が並んでいた。だが、今はそのほとんどの皿は空っぽになっていた。
 アシュリーは自分の分をとっくに食べ終わって、私の給仕を務めていた。

「……まさかそれ、受けたんですか?」

「受けるわけないじゃない。あいつ、私を何だと思ってるのか……」

 いくらなんでも人殺しはないでしょ。

 ばんっ、とピッチャーをテーブルに叩きつける。

 人類の今の敵は悪魔だ。年々どこそこの国が、街が滅んだとか、そんな感じの話は後を絶たない。
 私だって、一応人間だ。世俗を離れたからといって、人族に対しての愛くらいある。
 手に負えないレベルの悪魔が現れたとか、そんな感じの話だったらまだ考慮の余地もあったかもしれない。

 それがよりにもよって人間、人間だ! 人間を殺せ、などとそんな話があるものか。

 共通の敵があってさえ、人は人に、どうしてそれほどまでの殺意を向けられるのか。
 私にはその気持ちが昔からずっとわからなかったし、今も全くわからなかった。
 寿命が短いんだからそんなに生き急ぐ必要もないだろうに。

「ルートクレイシアですか……そういえば今けっこう話題になってますね」

「へー……そうなんだ」

 気のない返事をしつつ、空になった皿を脇に避ける。
 ルートクレイシアはこっから大分遠い所にある中規模程度の国だったはずだ。
 確か現当主の名前は――ダールン・ルートクレイシア。何十年か前くらい前に一度呼ばれて手合せした事がある。手合せの内容はもう覚えていないが、彼には才能があった。もしかしたら今は人としての壁、599レベルを突破しているかもしれない。

「つい最近当主が変わったみたいですね。その公爵の息子が跡を継いだらしいですよ。ダールン公の嫡子でまだ十六歳だとか」

「へー、そうなんだ」

 アシュリーが手を止める。

「お嬢様、興味なさそうですね」

「興味ないもの」

 だって……ねぇ?
 そのダールンの息子とやらがたとえば数百数千人を殺す暴君で、国が滅びかけていたとしてもそんなことは私の知ったことではないのだ。
 勇者の敵は魔王だけであり、その他の奴らは範囲外もいいところで、父が魔王を倒すまでの間に魔族を尽く倒していったように、目標達成を妨害してくるならまだしも、少なくともその息子は私に何の被害も与えていない。
 それがどうしてわからないのか。

「で、その息子が何かしたの?」

「んー……そこまではちょっと……。色々噂はあるんですが……うん千人殺したとかやたら強い武器を量産して売ってるとか数十人規模のハーレムを持っていて酒池肉林の日々を過ごしているとか……そうそう、数千規模の悪魔の軍勢をたった一人で皆殺しにした、とかいう話もありましたね」

「へー、そうなんだ」

 うん、無害だ。











第五十四話【もっと引きこもりの話】




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第五十三話:黒紫色の理想

 周囲の空間が融解し、わずかなノイズと景色が変化する。
 無限に見える夢幻の空間から、生活に最低限必要なものしか置いていない簡素な一室へと。

 私は一週間ぶりにゲームを終了し、魔力で作成された空間から現実の私の部屋に戻ってきた。
 大きく伸びをして、やはり一週間ぶりにベッドにダイブする。
 勇者の血により、生命の理をぶっちぎっている私の肉体は疲労を知らない。だけど、不思議と全身に感じる柔らかいものに埋まる感覚はとても気持ちがよかった。

 人魔戦記3はオンラインの格闘ゲームだ。
 このオンラインと言うのはオンライン対戦があるから、という意味ではなく、サーバーに接続してやるタイプのオンラインゲームという意味である。
 魔王の使い手のライバルが現れてから数年、そのほとんどを修行に費やしてきたが、そんな私でも週に一度、確実にゲームを終了する日がある。
 それすなわち――サーバーの定期メンテナンス

「…………」

 ベッドの上で力を抜く。
 一週間も留守にしていたのにシーツは清潔だった。私が戻ってくる時に合わせて掃除してくれたのだろう。心配りがありがたかった。

 しかし……

 枕に顔を押し付ける。

 今回もまた私のライバルは現れなかった。
 日々挑んでくる魔王の数は減りつつある。私の噂がもう広まりきっているのだろう。
 仕方なくランダム対戦で修行をしているが、最近私は自分の実力が頭打ちになっている事に気づいていた。
 相手がいないのだ。
 技術は同等の実力者と切磋琢磨する事でより高められる。
 元々無駄に寿命のない私は人魔大戦は1からやっていたし、そもそもの基盤が他のユーザと違っていた。
 今や私にライバルを除いて敵はいない。
 だからこそ私はもう――

 レベルが高くなると弱い敵を倒しただけでは経験値がたまらないように。

 三千年の経験。それが逆に私に自分の天井を気づかせる。

 人魔対戦は魔力を使用するオンラインゲームだ。
 そこそこの魔術師にしかプレイできないというハードルの高さと、それなりの実力を持つ魔術師は一部を除いて多忙であるという現状から、実力者は育ちにくい傾向にある。

 もしかして私のライバルは引退してしまったのだろうか。

 一瞬――いや、この数年何度も頭にかすめるその文言を精神力でごまかす。

 オンラインゲームは所詮ゲーム、何度も一緒に戦ったフレンドが急に挨拶もなしにプレイしなくなるというのはそれほど珍しい話でもない。私自身何度もそれは経験しているし、逆に私がやらなくなった事もある。

 だけど信じたくなかった。
 自分が唯一見つけたライバルが……既にこの世|《ゲーム》にいないなどと。

 その時、扉を控えめにノックする音が聞こえた。

「リィンお嬢様、いますか? お客様が来たのですが」

 久しぶりに聞く声。
 私の返事も待たずに扉が開く。
 
 部屋に入ってきたシンプルな意匠のメイド服を着た少女――私のたった一人の従者、アーセルに、顔だけあげて答えた。

「久しぶり、アーセル。元気だった?」

 アーセルはベッドに転がる私に目を向けて、すぐに侮蔑するような目つきになった。
 無言でベッドの脇の椅子にかけてある……真っ白なロングドレスを見る。

「リィンお嬢様……何度も言ったでしょう。ちゃんと服は着ないといけないって」

「……服着るの面倒なんだもん」









第五十三話【引きこもりの話】


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外伝二話:黒紫色の理想

「地下水路の鍵? ああ、そんなのもあったな」

 しーん様に尋ねた所、とくに何の問題もなくかぎをくれた。鈍色に光るかぎ束、冒険のけはいにむねがどきどきする。

「あそこには悪魔がうようよしているが……LVだけならナリアはトップクラスだ。まぁ大丈夫だろ。ルートクレイシアの地下水路に棲む悪魔の平均レベルは10~500、お前を傷つけられる生命体は存在しないだろう」

 しーん様のひさしぶりに聞く声は、わたしの脳のおくにゆっくりと染みこんでいく。

「地下階層型ダンジョンで、階段をどんどん降りていくと最下層にはそこそこ大きな地底湖がある。ああ、そうだな。丁度いい、そこにおいてある白鯨の剣を持ってきてもらおうか」

 はなしが勝手にすすんでいく。しーん様の黒い瞳がわたしのしんぞうをつかみ、絞り上げる。むねがくるしい。

「これはルートクレイシアに代々伝わる由緒正しき試練でもある。あ、持ってこれなかったらここから出て行ってもらうから」

 ……

 ふきつな言葉が聞こえた気がした。
 わたしのふわふわしていた意識がはじめてしーん様をはっきりと捉える。

 しーん様はわたしを見ていなかった。せなかを何かつめたいものが通り過ぎる。
 わたしはむねをしめつける何かとせすじを貫くつめたい何かをどうじに感じた。

 しーん様のことばがわたしの中にじわーっと染み込んでくる。そこでようやくりかいした。やばい、と。

 出て行ってもらうから?

 ……だいじょうぶ、わたしならできる。
 わたしのレベルは高い。高い。高い。
 しーん様もさっき言った。わたしをきずつけられる存在は地下水路にはいないと。
 じかんはかかるかもしれないけど、わたしならきっと――

 しーん様が何か黒いものをなげてきた。反射的に受け取る。
 それは、黒いすなどけいだった。

「制限時間は三時間な。スタート」






第四十五話【ナリア・フリージアの探検記その1―ルートクレイシアの地下水路―】



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スーパースランプ中

どうしようもなく書けない。
書いたとしても自分で読んでて面白くない。
自分で読んでて面白くないものが他者が読んで面白いわけがない。

これぞスランプです。けっこう頻繁に来ます。
他の小説見て気を紛らわせようにも読みすぎていつの間にか書く時間がなくなってたりします。
今しばらくお目汚し失礼します。

第五十二話:黒紫色の理想

 御恩と奉公と言う概念がある。
 簡単に言うと、主人は従者に対して土地を与え、従者はその見返りとして緊急時の軍役を負担する、そんな制度の事だ。
 これはルートクレイシアと、遥か昔ルートクレイシアの初代当主に土地を与えた肯定との間にもあてはめられるがこれは今回はあまり関係ないので割愛する。
 俺と、俺の部下であるシルク達との間に組まれた関係はもっと単純である。
 奴隷と主人。ただそれだけだ。
 俺は主人で、奴隷には人権がない。だから、死ぬまで働かせてその結果死んでしまってもそれは仕方ないことで、主人に対しては特に罰などない。
 だが、それでは些かつまらない。
 奴隷にも、どうとでもなるとはいえ、意志があるからこっちの対応次第でやる気とかテンションとかパラメーターとかいろいろ上がったり下がったりする。
 やる気を出させるのも主人としての腕の見せ所だ。
 だから俺は、自分に大きな利益をもたらしたものに対して、それなりの褒賞を与えるようにしていた。

「クリステル、解放してやるよ」

「え!?」

 俺の宣言に、クリステルが驚いたような声を上げた。

「……もう一度言ってもらえますか?」

 その様子が少し意外だった。
 俺の屋敷にはエルフが十五人いるが、クリステルはその中でも酷く好感度が低い。

 全てナリアのせいだ。あいつの姉に対する扱いは『売る』というレベルを超えている。俺は生贄なんて求めないが、もし求めたとしたならば、ナリアは死ぬとわかっていても平然とクリステルを差し出すだろう。
 それをクリステルは俺のせいだと誤解している。好感度も落ちて当然だ。
 そして俺にはその誤解を解く気がなかった。特に問題ないからだ。たとえ好感度が低かったとしても、一エルフが俺にできる事などたかが知れてる。

「解放してやると言ったんだ。今の立場からな」

 俺の下にいるエルフたちは契約で縛られている。
 それは俺とエルフの族長の間で数百行にもわたった契約書として明文化されており、俺がシルクやアンジェロに課しているそれとはまた違ったものだ。

 彼女らが逃げ出したとしても帰る所など既にない。
 まーそれなりに贅沢な生活させてるし、逃げようとはなかなか思わないだろうけど。
 エルフは美人だ。俺ならいくらでもいける。多分転生前に持っていたら俺は転生していなかっただろう。
 だが、さすがに十五人もいれば一人や二人手放してもいいかなって気がしてくる。
 それくらいリトリには価値があった。

「リトリは素晴らしい。容姿も能力も申し分ないし、何よりあの魔眼は別格だ。あの魔眼があれば世界の征服すらできる!」

 俺の周りはうそつきだらけだからな。
 もっとみんな正直に生きるべきだろう。

「反応も悪くなかったし、今回はろくに引き出せなかったが情報も持っているはずだ。文句のつけようがない」

 強いて言うならこれでこちらの味方だったら本当に完璧だったのだが、そこまで無茶は言うまい。
 クリステルは何も言わずに、固まったまま俺の言葉を黙って聞いている。

「そんなリトリを、偶然であれ俺の元に連れてきたクリステルの功績は極めて高い。よって、本来ならあり得ない事だが特別にクリステルの枷を外してやろうと考えたわけだ」

「……なるほど、やはりリトリは負けたのね」

「あいつは戦闘能力はゴミ以下だ」

 独り言のように小声でつぶやかれた言葉も見逃さず、はっきりと宣言してやった。




第五十二話【御恩と奉公の話】




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GWが始まったのに

いつの間にかGW前半が終わった。
お休みもらったので連続で更新しようと思ってたのにまだ一話も書いてない

他のサイトとかぶってたのでブログ名変えました。

これからもよろしくお願いします。
         
プロフィール

槻影

Author:槻影
ファンタジーやらその他もろもろの雑文サイトです。エタを恐れずに好き勝手書いていくのがモットー
ずっとWeb上で活動していましたが、『堕落の王』が出版されました。
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