2013-06-10  02:41  by 槻影 
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「くそ、またハズレか!」
転移門から半分出てきかけた灰色の塊を引っ張り出し、地面に叩きつける。
それでも怒り収まらず、それを二度三度と踏みつけた。
かろうじて翼や牙のような物が見て取れるが、それにはもう殆ど生物としての原型がなかった。
計画は予想外に難航していた。
不死だったはずの連中だが、時間の流れというのは予想以上に残酷だったらしい。
完全なら物理耐性やら魔術耐性やら驚異的な蘇生能力やら持っていても、闇の中での三千年の孤独には耐え切れないという事か。
なかなか勉強になるな。メモ帳にその旨を記載する。
次厄介な不死の敵が出てきたら異空間にふっとばすことにしよう。
しかしこれは困ったな。
魔法陣に次のアドレスを書き込みながら、辺りに転がる灰色やら黒の残骸を見回した。
その数、三十あまり。大きさは大小それぞれだが、どれもが干からびたような色をしていて、森の景観を脅かすこと甚だしい過去の残骸だ。
まだまだアドレスは残っているが、もう無駄かもしれないな。
ため息が出てくる。
まったく、この俺が必要としているというのに。
その時、ふと顔にしずくがあたった。
「……ん? 雨か……」
空を見上げる。
灰色の雲が俺の心中を表すかのようにもくもくと空を覆っている。
ポツリ、とまたしずくが顔にあたる。
屋敷に戻るか。
対悪魔の戦力についてはまた考えなおそう。
第五十九話【戦力の話】
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 2013-06-03  00:31  by 槻影 
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修正中。
黒紫色の理想の設定をまとめてフローチャートを作ったらかなりの数になっていた。
ちょっと修正します。
矛盾もけっこうあるので過去に振り返って少しずつ直していきます。
 2013-06-03  00:27  by 槻影 
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「知ってる諸君もいるだろうが、魔族領の悪魔の生息数は人族領の五倍とも十倍とも言われておる」
巨大な黒曜石でできたテーブルに一面に広げられているのは世界地図だ。
形としては、単純に言うとじゃがいものような楕円系。前後左右は海で囲まれ、その近辺には小さな島も転々とあるが、それらには物好きな一部の魔族や人族しか住み着いていない。
じゃがいもはだいたい真ん中を横断する山脈で真っ二つに南の人族領と北の魔族領で分けられている。尤も、およそ三千年前に人と魔で和解が成立してからその境界線はほとんど意味を成していなかった。和解が成立してからの魔族と人族の争いの数は人族と人族の間の争いの数より圧倒的に少ないのだ。
それなのにれっきとして境界が存在するのは一重にその山脈が難攻不落の境界であったからだ。そのせいで公路は主に空であり、転移魔術による移動など他にもいくつか手段はあるものの、その交通の便は決してよくない。
骨ばった指がじゃがいもを縦に横断する。
その様子を、様々な色形の眼が追っていた。潜め切れない吐息が静かな熱狂となって室内を満たしていた。
「原因は未だ定かではない。魔族領は人族領と違って常に強い瘴気で満たされておる。因果関係は未だ解き明かされてはいない」
「それもまた一つの失態だ。言い訳にもなりゃしないわ」
誰かがしわがれた声で呟く。
そんな事はわかってる。
失態は功績で雪がなくてはならない。過去は変えようがないが、未来はどうとでもできる、はずだ。
「わかっておる。だからこそ、その恥は絶対に雪がねばなるまい。さもなくば……魔王様は二度とこの地を踏むことはないだろう」
同意を得るかのようにあたりをゆっくり見渡すと、ハロルドはその指で、地図の最上端--黒く染めらた地をなぞった。
地図に書いてある文言。
『骨海黒墓』
アンデッドが治める領内の一区画。
かつては死んだ魔族を埋める大規模な墓地だった地だ。
死の概念が薄いアンデッドだからこそ、仲間の死を酷く悼み、それ故に領内の大部分を開放し、魔族の魂を鎮めるための墓地を作った。
だがそれもかつての話だ。
今では魔族の死体に取り憑いた悪魔が蔓延る魔族領でも随一の巨大な地表型の悪魔の巣となっている。
「『骨海黒墓』、魔族領でも随一の悪魔の巣だ。まず最初に潰すならこの辺りが良かろう。アンデッド領には住人がほとんどいない故、告知も容易い。また、この地は私が大部分を納める地故融通もつきやく、更にダンジョンと違って、地というそのフィールド自体が死の毒となる故に探索する者もほとんどいない」
魔族領はそのほとんどが瘴気で囲まれているが、特にこの地はその瘴気がひどい。人族でなくても、適正のない魔族では数時間と耐えられない程に。
確かにそういう意味だと、規模の大きさ、事前準備、そして事後処理が簡単だという観点からすると適切だろう。
だがしかし……
「まてまて、ハロルド卿。それは少し早計ではないか?」
やはりきたか。
それは当然予想できていたセリフだ。でも、だからこそため息が出る。
反論してきたのは、三メートル近い巨体を持つ獣人--オークの連中だ。元来生えている剛毛は綺麗にそられ、小奇麗にしてはいるがその獣臭さは抜け切れていない。
「ふむ……言ってみよ」
「確かに『骨海黒墓』は魔族領でも随一の悪魔の巣だ。だがしかし、所詮は辺境の地、魔王様もそうそう足を踏み入れることはなかろう。ここは第一に攻めるのならば『獣王の監獄』あたりはどうだろうか? 魔王様が来訪なさるならまずは辺境などではなく魔族領の中心、魔王城跡となるだろう。そうなると、通り道にある悪魔の巣こそがまず第一の殲滅対象とすべきと考えるが?」
その指が地図の一点--魔族領の中間地点あたりを指す。
『獣王の監獄』
オークなどの獣人が治める領の中心都市に存在する巨大な地下迷宮だ。
規模こそ平野一帯を覆う『骨海黒墓』と比べるとやや小さいものの、地下に存在するという立地と迷路のように奔る無数の通路、内部を徘徊するやや知能が高い獣人型の悪魔といった条件から『骨海黒墓』にも負けず劣らず魔族の毒となっているダンジョンである。特に繁華街の中心に入り口があるといった立地条件から、ろくに準備もせずにふらっと潜る冒険者もおり、そのダンジョンが飲み込んだ命の総量は間違いなく『骨海黒墓』よりも遥かに上だ。
「しかし、『獣王の監獄』は『骨海黒墓』とは違い、地下型のダンジョンだ。殲滅するのに手間がかかる。大量の兵を送らねばなるまい。ならば先に簡単に制圧できる『骨海黒墓』をターゲットにして士気を上げた後、、その他のダンジョンの悪魔を制圧していったほうが結果的にはより効率的であろう? 兵数は募集すればいくらでも集まってこようが、相手は知性高き獣人型の悪魔、そう簡単に制圧できるレベルではなかろう」
「いやいや、『骨海黒墓』の心臓が潰されぬ限り動き続ける強靭極まりない生命力を持つ悪魔と比べれば所詮『獣王の監獄』なぞただの獣の巣、ハロルド卿、魔王様を除いた中では至高に近い闇の魔力を持つ御身と我らが同胞の力さえあれば瞬く間に殲滅できましょうぞ」
ちょっとした皮肉が入ったオークの言葉。年甲斐もなく主張するハロルドの言葉。
その議論を聞いて、今まで黙っていた周りの魔族がそれならばと各々好き勝手な事を言い出した。
意見も言葉も種族も様々だが、一貫して言うことは一つ。
『我らの地に巣食う悪魔こそ第一に一丸となって駆除するべきだ。それが魔王様の御心に沿うに違いない』
だ。
馬鹿馬鹿しくて見ていられない。
私は、背から蛮刀を抜き取ると、ハロルドの城を破壊しないように手加減して床に叩きつけた。
城が揺れる。
大理石の床に深い罅が入り、破片がぱらぱらと舞った。
「…………」
「みんな、落ち着け」
期待通り、静かになった。
誰もが黙ってこちらに視線を向ける中、私はみんなの意に沿う、そして恐らく最も魔王様の意に沿うであろう少し考えれば誰でもわかる至極全うな意見を口にだした。
「最初に崩すのは竜族領にある『精竜山脈』とする」
ハロルドが思いもよらぬ伏兵に驚いたように反論する。
「『精竜山脈』……だと? あそこは魔族領に多数存在する悪魔の巣の中でも一際攻略が難しい山脈型のダンジョンだぞ? 位置も『骨海黒墓』に劣らぬ辺境の上、比べ物にならぬ過酷な道中、出現する悪魔は物理魔術問わず高い抵抗を持つ竜型……さしもの我らでもそう易易と攻略できるとは思えん。理由を聞いても?」
そんな当然の事もわからないとは……ハロルドとも長い付き合いだが、なかなか融通が効かない。それでもブラインド・ダークに比べれば遥かにマシだけど。
周囲を見渡す。同胞の竜族も、その他の魔族も皆私の事を不可思議なものでも見るような眼で見ている。
私は、全員の視線が私に集まっている事に満足して、道理を説明した。
「しれたこと。悪魔を殲滅するブレスは私の力、竜族の力だ。竜族領のダンジョンを真っ先に攻略するのは当然の事」
私の言葉に、他の魔族は皆黙る。
ハロルドの魔術は確かに凄い。三千年の月日はただのスケルトンに魔術の深淵を与えた。ハロルド程の魔術師は人界魔界を問わずそうそういないだろう。
ブラインド・ダークの能力は、性格はともかく魔王様から生まれただけあって竜の高い耐性があっても脅威だ。
しかし、だがしかし、広範囲を焼き払うのに|竜の息吹き《ドラゴン・ブレス》ほど強力な、広範囲の殲滅に適した力は存在しない。
「だがしかし、ハイライト・ドラゴンよ。我らは魔王様の僕、共通の目的を持った同胞だ。利己ではなく魔王様の御心に沿うべく力をあわせるのが道理ではないか?」
「ハロルド。貴様も、皆の者も本当はわかっているはずだ。魔王様は、どこを潰したから来訪していただけるというわけではない。潰した地にいらっしゃるのだ。そのためには手段など選ばん。もちろん悪魔の殲滅には協力しよう。だが、魔王様には第一に、竜族領に来てもらう」
竜族は魔族の中でも五指に入る。
悪魔は数だけは多い。
竜族の力なくしてそれらを殲滅するのは困難だ。
ハロルドはしばらく黙って考えていたが、やがて重々しく口を開いた。
「……まぁよかろう」
「ハロルド卿、本気か?」
オークが、私の言葉を肯定したハロルドを信じられないものでも見るかのような眼で見る。
ハロルドは、わがままな娘でも見るかのような目つきで私を見て、呟いた。
「仕方あるまい。こうしている時間がもったいない。どちらにせよ、考えることは皆同じよ。さっさと害虫を駆除し、魔王様に謁見を賜ろうぞ!」
「おおおおおおおおおおおおおおお!」
魔王様どうして転生したのに魔族領にこないんだろう。
こないのには理由があるはずだ。
それじゃあ理由はなんだ? 三千年前から変わったのはなんだ? 住み着いた大量の悪魔だ!
きっとこんな害虫が蔓延っているこないんだ。割りとどうでもいいからって悪魔の侵攻を放っておいた不甲斐ない私達のせいだ!
じゃー大掃除しよう。きっと悪魔がいなくなったら来てくれるさ!
倒したよ? 全部倒したよ? 魔王様きてきて、きたー!
こんな感じの計画原案から始まった壮大なる魔族と悪魔との戦いの歴史が今幕を切って落とされた瞬間だった。
第五十八話【八つ当たりの話】
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