夢幻のソリスト・ウォーカー Prologue

「おお、勇者よ、よくぞ参った」

 何言ってるんだこいつ、と俺は思った。

 見ず知らずの男である。偉そうな格好をしている。深紅のマントに銀色の王冠には大きな宝石っぽいものがつけられている。
 多分偉いのだろう。同じく深紅の豪奢な椅子に腰掛けている様には威厳も見える。

 そう、強いていうのならば――王様?

 いやいや、現代日本においてそんな非現実な事はありえない。
 といっても、今の状況が既に非現実だ。

 明らかに日本人ではない長い銀髪の男を眺める。美形である。ハリウッドスターと言われても納得してしまうだろう。その口から出るのが流暢な日本語なのだから違和感がある。

 人間、案外想定外の事が起こると何も言えなくなるようで、俺は黙ったまま周囲に視線を奔らせた。

 意味がわからない。冷静に考えよう。
 情報を整理しよう。

 |神矢 定輝《かみや さだてる》
 十八歳。男。
 高校の三年生で来年の三月には卒業する身。大学受験は既に指定校推薦で合格をもらっており、周囲があくせく勉強しているのを眺めながら最後の毒にも薬にもならない最後の高校生活を送っている。眼の前にいるのは明らかに外人だが、留学などした覚えもない。
 ポケットから携帯電話を取り出し日時を確認。
 2014年の11月30日。日曜日。俺の記憶にある最後の日が2014年の11月29日、土曜日だから時間もそれ程経っていない。記憶喪失という線もないだろう。

 だが、というのならば尚更意味がわからない。
 周囲を見渡す。鈍色の鎧を来た兵隊が数十人規模で並び、玉座にいる王様らしき人。その隣にはやはり少々とうが立っているがハリウッドスターと言われても納得してしまうような美人の女性が立っている。玉座に座る人が本当に王様なのならば、その隣にいるのはお妃様だろうか。どちらにせよ日本人である俺には馴染みのない話だ。

 映画のセットとか?
 いやいや、そんな馬鹿な。いきなり映画のセットの中に放り込まれるなど非現実だ。ドッキリという可能性もないだろう。何しろこのセット、全然作り物っぽくない。何より、俺の反応を見たところで面白くもなんともないだろう。リアクションは苦手だ。無愛想という評価を貰っている事も知っている。

「あの……勇者様?」

 そしてこのセリフ。
 勇者。勇者である。こともあろうに勇者である。ちゃんちゃらおかしい。
 勇者。優者。有者? いや、やはり勇者だろう。

 これもまた日本では馴染みのない言葉だ。
 いや、俺だってテレビゲーム世代なのでその単語自体は知っているが、それはフィクションの中であり現実世界でいい意味で使われた記憶はない。
 そしてまた、俺が今まで勇者などと呼ばれた記憶もないのである。

 俺の最後の記憶は、明日は朝早くに起きてみようと携帯のアラームをセットしてベッドに横になった所で途切れている。

「ふーむ……」

 鎧を着た者達が持つ長物、あれは槍と呼ぶ他ないだろう。腰に吊るしているのは剣か?
 やはり現代社会には馴染みのない物だろう。見たことないもののオンパレードで、物珍しさよりも先に疲労がきてしまい俺は溜息をついた。

 ありえない。こんな事はありえないのだ。
 俺の頭が狂っていない限りありえないのである。

「……どうやら突然の事で混乱しているようだな、勇者」

「……いや……」

 つい反射的に否定の言葉を述べる。
 混乱しているしていないで言うのならば混乱していないだろう。わけがわからないだけだ。いや、それを混乱と呼ぶのだろうか。ということはやはり混乱しているという事になる。

 眼の前の存外、冷静そうな王様を見る。俺よりもよほど事情を知っていそうだが、何を言われても多分信用できないであろう。
 十八年間付き合った自分自身の事だ。誰よりも知っている。何より眼の前の男は立派すぎて胡散臭いのである。

「勇者よ。わからない事だらけだろう。事情は説明しよう。だが、とりあえずは名を教えてくれんか?」

 なるほど。道理だ。
 だが本名を教える事も無かろう。俺は少し考えて短く言った。

「名を教える事はできないが友人にはカミと呼ばれている」

「カミ!? カミというのは……神という字を書くのか?」

「……まぁ、そうだ」

 敬語を使えないわけではないが、外人にこう流暢な言葉で話しかけられてしまったため無愛想な答えになってしまった。
 何か返答がおかしかったのか、王様が目を見開く。少し離れていた所に立っていた壮年の男が側に近寄る。
 小声なので聞こえないが何事か相談しているようだ。

 眼の前でいきなり相談されてもいい気分ではないが、何か文句を言えるわけでもない。
 俺は無言で頬を抓った。痛みはあったがまるで中途半端に麻酔でもかかったように、とても鈍い。

「神という事は……君は神様なのか?」

 そんなわけがないだろう。俺は人間だ。ただの高校生である。もう少しで大学生だが。
 宗教の教祖というわけでもなく、もちろん神様と呼ばれた事など一度もない。間違われたのはこれが初めてだ。

「いや、そんなわけがないだろ。俺はただの人間だ」

「ただの人間にしては混乱していないようだが……」

 何なんだこの会話は。何より、現実世界に神など存在しないだろう。少なくとも俺は見たことがない。
 大体、ただの人間じゃなかったら何だというのだろうか。
 頭の中で湧きだす疑問の中で最たるものを汲み上げた。

「……いや、混乱してる。大体ここはどこだ?」

 私は誰? はわかるから、今大事なのはここがどこかだ。
 王様は少し考えていたが、やがて大きく頷いて答えてくれた。

「ここはどこ……か。ガリオン王国の王都であり王城だと言われてもわからんだろうな。……ならばこう応えるのが一番だろう。詳細は後から話すが、ここは君たちのような異世界から召喚されたものにはこう呼ばれている。『|夢幻《ゆめまぼろし》の|水平線《オリゾンテ》』、と」

「ああ、なるほど」

 聞きなれない言葉が多かったが一つだけ納得がいって俺は大きく頷いた。

 これは夢だ。道理でおかしいと思った。




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