夢幻のソリスト・ウォーカー 第三話:気静剣レビエリ①

 虚無王オルハザード
 現在人類に大きな被害を与えている魔王の名がそれ。
 正体不明だが居場所だけが知れ渡っている。常闇の森を抜けた先にある巨大な城こそが魔王の居城だ。
 その規模は今現在滞在しているこのガリオン王国の王城よりも遥かに巨大で、そして並の兵士ならば相対することすら適わぬ強大な悪魔が無数に潜んでいるらしい。
 大群を仕向けようにも深い森が四方を遮っており、練度の低い兵では森を抜ける事すら不可能な魔境である。それ故に人類の脅威は未だそこに堂々と在った。

 人類圏で最高峰の戦士を差し向けようとか色々しているらしいが、何しろ魔王城は勿論常闇の森も無数の悪魔がいる危険地帯であり、命を賭して魔王を撃てと命じるわけにも行かず、なかなか集まらない状況である。

 それが王様――レプト・マダ・ガリオン十五世が語った現状。
 常闇の森の悪魔は天敵がいないのを良い事に数を増やし、徐々に人類圏に侵入しつつあるとの事。

 それを打破するために人類の最終兵器として召喚されたのが俺こと、|神矢 定輝《かみや さだてる》、十八歳、凡人。
 正直、よくわからない。王国に保管されていた聖剣を最高峰の戦士に持たせて攻撃させればいいと思うのだが、それは言ってはいけないお約束なのだろうか。

 というか、俺ならば森に火を放つ。
 森を丸裸にしたら大規模な軍隊を組んで魔王城を攻めればよかろう。悪魔の数が多すぎるから無理なのだろうか?

 まぁ、所詮夢の話だ。俺の思考以上のものが生み出されるわけもない。そういう設定なのだろうと納得しておくのが無難なのだろう。

 そんな俺は、現在ガリオン王都で家を貰ってそこに住み着いていた。
 金は王様に貰った。屋敷も貰った。食事もあり、戦闘向けではないがスキルもある。
 この国の人は皆、概ね親切でもしかしたら現実よりも住み心地がいい。
 住み心地がいいからといってずっとそこで平和に暮らすわけにもいかず、所詮夢なので眼が覚める前にさっさと魔王を倒してエンディングを見てしまいたいのだが、王様と大臣に止められていて、どうにもならない。

 どうやら、最初に聖剣を持たずに魔王を倒しに行こうとしたのがまずかったらしい。
 最低でも聖剣を使いこなせるようになってから戦いにいけというお達しである。俺の深層心理はどうしても俺にロリコンという新たな扉を開かせたいらしい。
 全くもって遺憾な事だった。

 最初に立候補した『気静剣』レビエリは俺と『顕現化』と呼ばれる特殊な儀式をこなすために宝物庫から俺の屋敷に移っている。
 が、いつまでたっても顕現化とやらをする素振りを見せなかった。

 そもそも、顕現化ってどうやるのだろうか。
 大臣に聞いてみたが、方法は聖剣によって異なるらしく、分からないというなんとも意味の分からない回答が返ってきていた。
 それでいいのか、大臣! お前の国の聖剣だろ!

 まぁ文句を言っても仕方がない。屋敷に移って一週間。わかったことがある。
 大臣はレビエリの事を気が弱いと称したがそういうレベルではない! 引っ込み思案とかそういうレベルでもない!

 なにせ、レビエリは屋敷に来てから与えた部屋の外に出てこないのである。聖剣は食事も排泄も不要なので一切部屋から出てこない。顕現化について聞くどころではない。コミュニケーションすら取れない。なんでお前立候補したし。
 鍵がかかっているので無理やり入るわけにもいかず、王様や大臣は何故か俺に強い期待を抱いているらしく、金も貰っている以上何もしないわけにもいかない。

 ついでに、ここにきてから数日経つが夢が覚める気配もない。

 仕方ないので徒手空拳で魔王に挑もうとするが、王都から出られない。
 門で止められるのである。どうやら王様達がそういうお触れを出しているようであった。聖剣と一緒じゃないと外に出られないのだ。
 無理やり出るのも不可能であろう。RPGとかでよくある話だ。多分そういうフラグが立っているのだ。現実ではまずありえない話だが、これは現実ではないのであり得るのだろう。もう諦めた。

 となると、そんな俺の居場所はもう宝物庫にしかないだろう。

 仕方なく、俺は王都の宝物庫に入り浸っているのであった。
 レビエリは俺の屋敷に連れて帰ったが、他の四体の聖剣については未だ宝物庫の中に入ったままだ。少しでもヒントを得るために俺はできるだけ宝物庫でご同輩とコミュニケーションを取ることにしたのである。

 やることないし。

 一度だけレビエリの代わりにフレデーラに一緒に来て門を通行させてくれるように頼んだのだが、彼女らの間で某かの協定が張られているらしく、レビエリを使えるようになるまで協力してくれないとの事。

 これもまた一つのフラグなのだろう。順番に彼女らを扱っていくしか俺に残された道はないようだ。まぁレビエリと顕現化してどうにか聖剣としての力を引き出し、魔王を倒せればレビエリだけで済むのだが、彼女は防御に向いた聖剣らしいし、それだけで魔王を倒せる可能性はあまりなさそうだった。
 俺の夢なのに全く俺の自由にならないあたり、なかなか人生ままならぬもんだ。

 かくして、宝箱に囲まれた密室で今日も今日とて聖剣達はその時をじっと待っているのであった。

「早くしなさいよ! 順番待ってるんだから!」

 フレデーラが今日も飽きずに文句を言ってくる。
 俺が宝物庫を訪れると真っ先に駆け寄って文句をいうあたり、相当暇なようだ。
 まぁそれもそうだろう。仲間がいるとはいえ、こんな密室でやることもなくじっと待つ生活は気が滅入って仕方なかろう。

「全く、いつまでかかってるのよ。レビエリなんか一発でしょ!」

 こうして話していると、彼女達は人間にしか見えない。
 腹は減らないし排泄もいらないみたいだが思考回路も感情の発露も人そのもので、不満も貯まれば文句も言う。

 聖剣。精霊の宿った剣の事であり、俗に精霊剣とも呼ぶ。剣に宿る事のできる精霊は上級以上らしく、数は多くないらしい。
 フレデーラ達はそういう意味では精霊のエリートに当たるとの事だ。勿論それはレビエリも同じ。ファンタジックな設定なんて割とどうでもいいのだが、やる事がないので聞いてみるといろいろ面白い話が聞けた。

 例えばフレデーラ達、五体の聖剣はかつて悪魔と人類の間で発生した大戦で活躍した聖剣達の生き残りらしい。
 ほとんどの聖剣はその大戦で英雄と共に滅んだらしいが、一部乗り越えた剣達が次の戦に備えて各国の宝物庫に眠っているそうだ。
 つまり、聖剣は彼女たちだけではないのである。八属性と言ったが、この国には五体の聖剣しかいない。
 残りの三属性の聖剣も世界のどこかで彼女たちと同じように眠っているのだろう。
 普通に考えれば同じ属性の聖剣が複数存在している可能性もありそうなものだが、そこまで考えていてはいけない。俺の夢なのだから、多分ダブりはないだろう。RPG的にいまいちだろうし。
 しかしなかなかどうして壮大な設定である。

 フレデーラは俺がレビエリに手間取っているのが我慢ならないようで、近況を聞きたがる。
 ならば自分から立候補すればよかったのに。

 俺としてもこんなことになるくらいなら破壊力に富んでいるらしい、炎の神性『フレデーラ』か光の神性『トリエレ』を選べばよかった。少なくともあの時点で俺には選択権があったのだから、攻撃力が高い聖剣でさっさとかたをつけてしまったほうがよほど楽だった事だろう。
 フレデーラはともかくとして、トリエレと顕現化できるかどうかは不明だが……

「で、レビエリはどうしたのよ」

「相変わらず引きこもって出てこないな」

「……あの子、なんで立候補したのかしら……」

 本当にそれが不思議でならない。
 フレデーラやその他の聖剣達から聞いた感じだと、レビエリの内気っぷりはもはや病気だ。
 長年同じ部屋に一緒に閉じこもっていた他の聖剣達ともなかなか打ち解けられなかったらしいし、それはもはや彼女の性だろう。
 だからこそ、そんな彼女が自ら挙手して立候補した点に疑問が残る。

 そしてそこまでして、俺の元に来たにもかかわらずまた引きこもっている点にも。

 少なくとも、魔王を倒すだけならばレビエリの力を借りる必要はない。もっと破壊力の高い聖剣が他に四体もいるのだから。
 無理する必要もなさそうだけどな。

「フレデーラはレビエリの顕現化の方法は知らないのか?」

「……知らないわよ。他の聖剣の顕現化の条件なんて」

 顕現化をなすことで彼女たちは武器に姿を変える。その威力は必殺、いかなる鍛冶の名手であってもその力を超える武器を作る事はできない、とは彼女自身の談。

「だけど……レビエリ自身は知っているはずよ。自分の方法なんだから……」
 
 つまり、彼女は知っているのにあえて教えてくれないのだ。
 意地悪だろうか? いや、唯のフラグであろう。
 たまに忘れかけるがここは俺の夢の中。彼女が顕現化方法を教えてくれないのならばそれなりの理由があるはずなのだ。

「なんかヒントはないのか?」

「……一度話し合うべきだと思う」

 俺達の会話に、アインテールが顔を僅かにあげてこちらを見た。
 相変わらず無感動な表情。だが、何だかんだ助言をくれるのだからありがたい。

 なるほど、話し合う、か。

 その助言は存外に的を射ているように思えた。
 確かにレビエリが引きこもっている事を理由に話し合いを避けていたかもしれない。あの泣きそうな顔と会話を交わしていると罪悪感が湧いているからだ。

 幸いな事に屋敷は俺が王様から預かったものであり、全ての部屋のマスターキーがある。
 鍵を開けて入るのは申し訳ないがやむを得ん。世界の平和のためだ。

「ふむ……確かに、うちに引き取ってから一度も話し合ってなかったな……一度くらい面と向かって会話を――」

 がたんと。
 音を立ててフレデーラが立ち上がる。
 唖然とした顔でまじまじと俺の顔に視線を向けてくる。

「あ、あんた……一度も話し合ってなかったって、この一週間何やってたのよ!?」

 詰め寄ってくる赤髪。指先をつきつけられまるで責められているかのようだ。
 責められているのか。
 いやはや、申し訳ない。だってレビエリ、全然扉開けないから。

「……そりゃ顕現化もできないわ……」

 ふむ。そうくるか。
 それがキーだったか。なるほど、聖剣というのもなかなか面倒な事だ。
 さっそく家に帰ったらマスターキーで扉をこじ開けて中に侵入するとしよう。

「あんた……鍵こじ開けて入ろうとしているわけじゃないでしょうね……」

「……」

「ノック!!」

 胸元を掴みあげて詰め寄ってくるフレデーラ。背丈が小さいので全く迫力がないが、その熱意だけは伝わってくる。
 きつい瞳が俺を見上げている。至近距離から睨みつけている。小さくてもその眼には力があった。

「ノックを、ちゃんとするのよ!?」

「……わかってる。そんなの常識だ……」

 危ない危ない。
 ノック、か。確かに忘れる所だった。だが彼女がノックをしたくらいで返事をくれるだろうか?
 あの人見知りのレビエリが、まだ二言三言くらいしか会話を交わしていない俺に対して返事をしてくれるだろうか?

 ……まずありえないだろう。レビエリはきっとそういうキャラだ。

 そんな事を考えていると、ちょいちょいと左手の袖をつっつかれる。
 振り返ると、トリエレがきらきらした純粋な眼でこちらを見上げている。
 あまりにも綺麗な瞳。子供というのはこれだから嫌なのだ。それを見ているとまるで――自分自身が汚れているかのように感じてしまうから。

 トリエレはそんな俺の心情に気づくことなく、子供特有の甲高い声をあげた。

「お兄ちゃん、レビちゃんはねぇ……チーズケーキが好きなの!」

 へぇ。この世界にもあるのか、チーズケーキ。
 割りとどうでもいい情報をもらってしまった。だが、これは買っていけという事なのだろう。どこで売っているんだ、チーズケーキ。
 金はそれなりに貰っているから買えないという事はないだろうが……ふむ、自身の夢のキャラクターの機嫌を窺うというのも妙な話だが、土産の一つで機嫌が上がるのならば儲けものだろう。何より、ストーリーが進みそうだ。

 糸口が見えてきてテンションが上がりかけた所で、続いて右腕の袖が引っ張られる。
 振り向くと今度はフィオーレがこちらを見ていた。
 頬が僅かに赤い。それが端正な容貌にあって可愛らしい。このままでは深層心理と言わず、俺はロリコンになってしまうかもしれない。俺がおかしいのではなく、ではなく、それくらい可愛いのである。

 そのまま、恥ずかしそうにフィオーレが呟いた。

「……私達も、好きだから。チーズケーキ……」

「あ、はい」

 持ってこいってか。お前ら別に物食う必要ないだろ!
 とか何とか言って、多分私達という事はフレデーラとアインテールも好きなのだろう。期待を超えた視線が注がれているのを感じる。
 まぁケーキの一つや二ついいけどさ。どうせここで持ってる金も眼が覚めれば露と消える運命だ。全て使い切るつもりで買ってやろうじゃないか。

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