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【下書き】第三十七話:黒紫色の理想

 
 
 死神は月夜に哂う。
 
 一つの身体に二つの心。
 幾度術を行使してもこの感覚に慣れることはない。
 いや、慣れた瞬間、俺の精神はこの身体に囚われる事になるのだろう。
 
 肉体に精神が縛り付けられる。
 
 術の名前は『Possess』
 精神を飛ばし、術の対象の身体を一時的に乗っ取る。
 
 弱点は、憑依している間本来の自分の身体を動かせない事。
 そして、あまりに術式が"成功"しすぎた瞬間、精神が二度と元の身体に戻せなくなること。
 成功が失敗に繋がるという珍しい術である。
 
 この魔術は、MakingGolemなどとはまた違った意味で禁呪といえる。
 本来魔術の行使は多少のリスクを伴うが、この術はそのリスクが他と比べ殊更に大きい。
 かつてどんなに大きな力を持った魔術師でも、この術の行使に躊躇いを覚えなかった者はいなかったほど――
 
 
 
 
「ただ私は在るが為にその力を行使する」
 
 
 だがそんな事は今の俺にはあまり気にならなかった。
 
 口から漏れる声は間違いなくKillingField――この死神の少女の物。
 視点は俺の物よりも多少低く、それはこの身体の身長が俺の物より数十センチ低いからだ。ただちょっと低いだけで、世界はまた違った様相を見せている。
 
 一言で言うとおもしれー。
 
 
 何となく部屋の姿見の前でくるくる回る。
 おそらく、くるくる回るKillingFieldを見る機会などこれが最後だ。
 シルクの視線が痛かったがそんなの関係ねえ。
 無表情とその行動のギャップがもういろいろと……
 
 
 
(!?)
 
 あ、KillingFieldが目覚めた。
 といっても術が切れるまでの間身体の主導権をとられることはないのだが。
 
(――っぅう―――ッ!!)
 
 頭の中にノイズが奔る。
 何かと思ったら、あれか。鎌持ってないから、話せないのか。
 
 遮断する事もできたが、元の身体に戻った後の好感度がアレなので、テーブルの上においてあった腕輪を取った。
 後でプレゼントとして渡したかったが(好感度的な意味で)まぁ今つけても変わるまい。
 華奢な手を返し、腕輪を嵌める。
 
 
 嵌めた瞬間、身体に思った以上に莫大な力が流れ込んできた。
 
 
 
 
 
「うわぁ……ハイもとい廃スペック……」
 
(な、何で私が……身体が勝手に――)
 
 頭の中に響くKillingFieldの声は無視する。
 
 感じ入ってみるに、KillingFieldの身体は思った以上に化け物だった。
 忘れがちだが、死神の名を冠する事はある。
 RPGで言ったらラスボスの後に出てくる裏ボスみたいな感じのスペック。
 
 
 
 
 
 間違いなく魔王よりも強い。
 
 
「何だってこれで俺を殺せないかね……」
 
 
 このスペックで不意打ち初撃で仕留められないとかアホかと。
 かつて魔王だった頃の俺には全然満たない。だが、先代魔王だった元親父は明らかに超えている。
 
 
 適当に身体を動かす。
 種族の差か。性別の差か。
 思った以上に身体が動く。憑依している最中だと忘れてしまいそうなほどに。
 
 突き、斬り、払う。
 蹴り、殴打し、跳躍す。
 
 しなやかに動く筋肉。
 本来その肌の全て覆っている死神っぽい黒のローブがはためき、ちらちら見える白い肌が眩しい。
 
 
 あー、これで身体を動かしてるのが俺じゃなかったらなぁ。
 さすがに天才の俺でも、自分が動かしている身体には欲情せんよ。
 
 
 そんな事を考えていると、
 
 
(……綺麗)
 
 
 
 
 
 
 ……お前の身体だろ。
 
 
 
 KillingFieldが何か新たな道に目覚めていた。
 
 
 
 
第三十七話【死神と魔王の話】
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 頬を綻ばせるように笑う少女は、傍目から見てもとても綺麗だった。
 
 
 
 
 自分だとは思えぬほどに。
 
 
 
 
 
 
 もともと、私には自分が確固とした存在であるという歴史がほとんどない。
 私はある日突然発生した。発生以前の記憶はなく、発生直後にはもう既に自分がここに存在していう実感があって、何をすべきかの知識もあって、そして自分の存在意義について理解していた。
 まるでピースの欠けたパズルのように、整合性のない記憶は本来人に不安を抱かせるものなのだろうが、それに関しての記憶もちゃんと残っていて、その存在に不自然さを感じる事ができなかった私は間違いなく世界の生んだバグなのだろう。
 
 身体が勝手に動く。
 きちんと四肢の感覚が残っており、五感も間違いなく存在しているにもかかわらず勝手に身体が動くというのは、私が今まで感じた事がないほど不可思議な感覚だった。
 
 動かしているのは、私の本来の殺すべき標的。
 
 
 シーン・ルートクレイシア。
 
 
 身体が非常に軽く動く。古くからの比喩を使わせてもらえば、まるで羽の如く、私の四肢はシーン・ルートクレイシアの意志に従い動いていた。
 
 無駄のない達人の動き。
 研鑽された、才能の力。
 隙のない武人の業。
 
 軽く動く身体は間違いなく私の物で、そうであるからして、当然これは私の身体が本来これほどの動きを為す性能を持っているという事を示しているのだろう。
 
 私がシーンについて知っている事はほとんどない。
 傍若無人でこの上なく傲慢で女好きでトラブルを片っ端から力づくで解決していって、驚くほど秀逸な魔術師で――せいぜいこの程度だ。
 
 そして、今回身体を乗っ取られるにあたり分かった事。
 
 それは、シーンが間違いなく自ら吹聴する"天才"の領域にあるという事だった。
 他者の身体を乗っ取り、しかもそれを本人以上に上手く扱う。それは確実に、常識を超えた机上の空論の一端にある。
 仮に、この今のシーンの私の身体の操作を、"なっていない"ものだとしよう。
 それはそれで、前説に決して劣らぬ恐るべき話である。
 それは彼が、人間でいう超高レベルの範囲内に生まれた私の肉体の操作を遥かに超える精度で、常に自分の身を操っているという事に他ならないのだから。
 
 だから私は、身体を勝手に動かし続けるシーンに一言の反対も述べる事ができなかった。
 その代わり、私は彼の技術を吸収して自らを成長させるに努める。
 
 遥かに人を超えた五感が風を感じる。
 肉体には、動かした感触が消える事なく残り続けている。
 実体験という言葉があるが、これはちょっと本来の意味とは異なるが、究極のソレに近いだろう。
 剣の師匠が、教え子の身体に手を沿え構えの手本を教えるように、シーンの動きは私の脳裏にダイレクトに"本来あるべき動き"を伝える。
 いや、脳裏に伝わらなかったとしても、彼が十分もその妙技(彼自身にとっては児戯に等しい事なのだろうが)を行えば、私の身体には自然とその動きが焼き付けられるに違いない。それほどまでにこの動作は鮮烈で衝撃的なのだから。
 
 
 
 身体能力だけ取ってみれば、シーンの肉体は私に及ぶべくもなく脆弱だ。
 出会った瞬間に殺しきれなかったのは、単に身体能力の差程度では埋めようのない経験の差というものが私と彼の間にあったからである。
 完全なタイミングで行った奇襲をぎりぎりで避けられた事でできあがった空白。
 本来遠距離で使用する魔術がメインの武器であるが故に、近接では確実に仕留める事ができるという驕り。
 知識と現実の差により、固まる思考。
 魔術を使用するのに使われる詠唱は、最低でも十秒かかるという一般常識を持っていたが故の油断。
 初めの奇襲を回避された事によりほんの一瞬できあがった刹那の狭間に、私は確かに彼の唇が動くのが見えた。
 
 何を唱えていたのかは分からない。
 私の聴覚が聞き取れないほどの小さな声だったわけでもないにも関わらず。
 
 私に聞こえたのは
 人の声帯から発生するものだとはとても信じられないほどに繊細な"ザワメキ"と
 最後に呟かれた一言の私にも意味の理解できる呪文のみだった。
 
 
 
 EndOfTheWorld《世界の終わり》
 
 
 
 私の感性をこの上なく波立たせる呪言にも似た不吉な単語は、今この時代に伝わっている魔術のほとんどを知識として与えられているはずの私の中にも存在しない術式で
 圧倒的なスペックの差が存在する人間とそれに似て非なる死神の間に存在する天高く聳える隔壁を粉々にして余りある終わりを齎した。
 
 
 正直、術を受けたその後の事はよく覚えていない。
 神聖の非常に高い、私のシンボルとでも言えるべき大鎌はたった一つの術によりその意味を失い、私は意識を上手く保てなくなってしまったからだ。
 いや、自ら記憶を封じ込めたのかも知れない。
 
 
 
 
 薄ぼんやりと残る記憶の中にいる私は――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 …………
 
 
 
 私死神なのに……
 
 
 強いのに……
 
 
 ……か、鎌の柄なんて、は、はいらないよ。無理だって!
 無理。そんな笑顔で言われても……やぁああああああああ!!!!!
 
 
 
 
 
 
「どーしたKillingField。顔が真っ赤だ」
 
『……今身体を操ってるのは貴方でしょ。シーン・ルートクレイシア』
 
「俺が顔真っ赤にするわけないじゃん」
 
『…………』
 
 
 熱暴走を起こしてしまった自分の頭を何とか元に戻すべく試みる。
 か、彼は顔を真っ赤にするわけがないといった。つまり、シーンは自分の感情をコントロールする事ができるという事だ。私もできるようにならないと彼には遅れを取って――
 
 
 
 
『KillingField……愛してる』
 
 
(ッ!?)
 
 
 脳の奥底に残るその表情には、いつもの軽薄そうな色はなく、その常世に存在するいかなる闇より深き黒の瞳は、その内に宿るものを一片たりとも与えない。
 
 愛って……何?
 
 それは一種の哲学的な問いにも似ていて、それでいてとても単純な物で、つまりは……
 
 
 
『愛? L……Love……Love&Peace?』
 
 
 頭が熱い。
 その時の情景を思い出すと、頭がくらくらしてくる。
 あの時唐突に上から降ってきて頬を濡らしたのは決して涙じゃないだろうし、愛してるなどという言葉はただの単純な、彼にとって誰にでも使える便利な文句以上の意味を持っていないと理解しているにも関わらず、余計な穢れを一切含んでいないその雫と台詞は私の心をかき乱してならないのだ。
 
 
 
「愛と平和……博愛にでも目覚めたのか?」
 
 
 私の心中を無視するように、私と同じ顔のシーンが鏡の中で口を開く。
 
「愛と平和……これ以上ないほど俺にマッチした言葉だな。少なくとも今まで愛を大事にしなかったことはないし、平和を乱すものは一欠けらも逃さず排除してきたんだから」
 
 
 上手い言い方だ。
 完全な納得はできないが、なんとなくわかる。
 彼の愛はかなり歪んでいるし、平和を乱すものの後ろには自分のという修飾語がつく。
 だが、それを除けば確かに愛と平和に従い行動してると言えなくも……
 
 
 
 
 
 
 
 前言撤回。全然わからないです。
 絶対に無理がある。ていうか、最もその言葉から縁遠いのではないのだろうか?
 私の気持ちも知らず、私の殺害対象は驚くほどいい笑顔で言った。
 
 
 
「さて、それじゃあ平和のために障害物の駆除でもしようかね」
 
 
 
 ああ、平和の裏には必ず争いがあるってこういう事を言うんだ。
 何かが間違えているとはっきり分かっているにも関わらず、シーンの掃除の間中、私の頭からはその考えが離れる事はなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 幸いな事に、支部の場所は男の記憶を覗いたおかげで分かっていた。
 よって、初めて訪れる場所だが転移の魔術によりそこに赴くことができる。
 
 ほとんどの小説の場合、敵地への転移は一種のタブーである。敵地に行くまでもまた過酷の試練の一端であり、その小説の内部にたとえ転移やそれに類似した力を使える術者が居た場合、結界とかそんな感じのが張られていて一直線転移はできないようにうまく設定されている。
 
 実際、この世界にも転移の魔術を妨害する結界というものは存在する。そりゃそうだろう。転移が絶対であれば戦略なんて必要なくなってしまうのだから。
 たとえ数メートルもの驚異的な厚さのミスリルの防壁で囲まれていても――転移の前ではまったく意味を成さない。
 転移とは、超高速による移動ではなく、点と点を線を辿る事なく"渡る"術。絶対であれば砦という概念が崩壊する。そして、未だ砦というものが存在している以上、それこそが転移が絶対ではないという証明になっているといえよう。
 
 ところで、俺が使える術のほとんどは三千年前、魔王だった頃に習得した術である。
 当然、転移の術も三千年前に覚えたものだ。
 
 
 三千年とはどれだけ長い年月なのか――いうなれば、三千年という年月はもはやただの時間ではなく、一つの歴史とでも言うべきものだ。
 度重なる悪魔の襲撃によって、文化の発展は非常にゆっくりだったようだが、それでも三千年もあれば一つの起源が辿れる。
 一番の変化は、魔族と人族がかなり歩み寄った世界になっていたことだが、それは俺がわざと仕向けた事なので置いておいて、
 例えば三千年もの年月があれば、魔王と勇者は伝説になるし、宗教が一つか二つできるし、カップめんは34214400000個も作れる。ちなみに、暗黒の月があるので一年は三百九十六日です。カップめんの計算して間違えてるとか言わないように念のため言っておきます。
 っと話がずれたが、何より、転生してみたらかつて存在していた魔術の形式が大幅に変わっていた。
 具体的に言えば、簡略化された。ゆとりとか言うつもりはない。簡略化とは変化であり進化であり、そして時代の流れである。
 結果として、今俺が使える術のほとんどは、現代では、古代魔術と分類されるかつて失われた秘術となってしまった。現在まで普通の魔術として生き残ってる術はスキルレイくらいなもんだ。
 だからこそ、俺の使える魔術の知名度は押しなべて低い。
 転生前の世界で禁術に分類されていた術などはまだいい。人間、やめろといわれると覚えたくなるものだ。それらは文献などにほんの少しだけ残っている。問題は他のかつて一般に使われていた魔術達。
 そのほとんどは、魔術の形式の変化や、文化の移り変わりなどによって存在が風化され、淘汰され、消滅してしまっている。本当の意味で失われてしまった魔術達だ。
 文献はおろか、人の記憶の中からも失われ文字通りなかった事にされてしまったそれらは、当然その対抗策についても現代には一片も伝わっていない。
 
 
 
 かくして、防げない転移の魔術という本来あってはいけない術がここに存在する。
 現在一般に伝わる高等魔術である"転移"とは大きく異なる原理で働くこれは、現在を生きる魔術師にとって大きな脅威に見えるだろう。
 原理が違うのだから、現在の転移妨害の結界ではこの術は防ぐ事はできない。ちょっと発動を遅らせるので精一杯だ。もちろん時間さえあれば対策も立てられるだろうが、見たところインスタントマジックが席巻している現代に、体系がかなり変わった魔術に対する対策を立てられるほど優秀な魔術師がそこら辺に転がってる可能性は万に一つあるかないかだと思う。
 
 
 遠見で戦力を分析し転移で移動し鎌でばさっと命を刈り取る。
 わずか三つの工程でKillingFieldの生命力は満ち、俺は邪魔者を始末でき、そんでついでに運がよければ世界のバグについての資料も見つかるかもしれないという一石三鳥の作戦。
 
 問題は、身体乗っ取って鎌を振るって果たしてKillingFieldに生命力が吸収されるかだが――まぁ、その辺は駄目だったら駄目だった出
 
 
 さっきから、真っ赤になったり真っ青になったり色々忙しそうなこの身体に宿る本来の人格に憂いを感じつつ、俺は転移の魔術を紡いだ。
 古代魔術の詠唱というのは、人間の言葉では言い表せない発音によるものだ。その音は、人それぞれの感じ方によって風のざわめきにも光の瞬きにも似て聞こえる。
 今まで文中に術名は出ても詠唱が出てこなかったのは、ただ単純に人語に表すのがほぼ不可能なためである。
 KillingFieldの舌で詠唱するのは若干難しかったが、それを何とか経験で乗り越え――
 
 
 俺は、もう一度しっかりと漆黒の大鎌を握る。
 俺のためだけではなく、KillingFieldのために。
 平和を愛する俺は、人を殺す決意をする。
 その生命力で愛しい少女を延命させるために。
 
 
 
 
 
 視界が歪む。
 
 遥か彼方に失われた術によりありとあらゆる生涯を飛び越え、次元の海を渡る。
 
 
 
 
 そして歪む視界が収束した瞬間――
 
 
 俺は、ちょうど眼の前に現われた獲物に向かって飛び掛った。
 
 
 
 
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