夢幻のソリスト・ウォーカー 第五話:気静剣レビエリ③

 初期装備が優遇されている。
 RPGにはなかなかないタイプではあるが、世界を救うのだからリアリティを重視するのならばそれくらいは在って然るべきなのだろう。俺はその幸運を受け入れた。

 ガリオン王国は周辺諸国の中でも三指に入る大国で、その王様から勇者に選ばれた俺はガリオンの勇者という事になる。
 一番強力な武器は聖剣で、一番強力な防具も何故か聖剣らしいが、その他の武具についてもよりどりみどり選びたい放題だった。
 宝物庫にあるアイテムもご自由にどうぞ状態だし、気に入ったものがなかったら王都にある貴族御用達の武器屋で購入してもいい。その代金も国持ちだ。

 ガリオンの聖章。ガリオン王国の勇者の証である腕輪である。

 王様から直々に貰ったそれを、俺はわかりやすいように右腕につけていた。
 これがあるかぎりガリオン王国での俺の行いは全て許容され、衣食住から店での買い物まで全てが無料になる。戦闘でこそ役に立たないものの、どえらいアイテムである事は間違いない。
 これがあればガリオン王国内ではやりたい放題なのである。殺人、強盗、強姦、あらゆる罪が許されてしまうのだ。つまり、RPGでよくある他人の家のタンスや宝箱を勝手に漁ることが出来てしまうのである。なにそれ怖い。
 普通タンスを勝手に漁られたら相手が勇者でも許せないと思うのだが、夢なのだからつっこむまい。あるいは勇者が強いせいで文句を言えないだけかもしれないが……

 なるほど、RPG的設定にリアリティを与えるのには便利なアイテムなのかもしれなかった。
 勿論、使うつもりはない。が、魔王を相手にするために必要なアイテムが一般市民のタンスに入っている可能性があるので、その時は遠慮なく頂戴しなくてはならないだろう。
 伝説のアイテムが一般家庭にあるというのはどう考えてもおかしな話だが世界観的にありえないと言えないのが凄く嫌だった。

 また、望めば最高の戦士に指導も付けてくれるという話だったが、夢の中でまで努力したくないので断った。俺は一刻も早くストーリーを進めたいのだ。

 屋敷の武器庫には両手剣、片手剣、槍、斧、槌、弓に至るまでありとあらゆる武具が所狭しと並んでいた。
 城の宝物庫や王家武器屋から搬入してもらったものである。念の為に言っておくが、俺が運んでくれるように頼んだわけではない。王様達が勝手に運んでくれたのだ。

 それらを、意外とあっさり部屋の外に出たレビエリを伴い検分する。
 自慢じゃないが俺は戦ったこともなければ武器を持ったこともない人間である。振りかぶって撲ることくらいはできるがそれ以上の技術は何もない。ついでに力もあまり強くない。
 名字が神矢だからといって弓が得意なわけでもないのだ。

「あの……勇者様は……何が得意なんですか?」

 おずおずと問いかけてくるレビエリの言葉を無視していいものか悪いものか。
 身長程もある巨大な剣の鈍い輝きをぼんやり眺めた。こんな巨大な剣、誰が使えるんだよ。何キロあるのか想像すら付かない。こんなの、もう鉄塊じゃねーか。

「得意なものなんて……ない」

 だって使ったことないからな。

「……そう、ですか……」

「……」

 会話が止まる。俺もレビエリもあまり人と話すタイプではないのだ。
 こんなんで協力してもらえるのだろうか? もらえるのだろうな。条件がレベルであるのならばそれを上げるだけだ。

 無造作に大剣の柄を握って持ち上げる。

 あれ? 思ったよりも軽いぞ?

「……ふむ」

 なるほど、これが夢補正か。
 おそらく両手で使うために作られた剣は、片手で容易く持ち上がっていた。
 剣が軽い金属でできているのか、それとも俺の腕力が高くなっているのかわからないが、これならば振り回すのもそう難しくないだろう。問題は持ち運ぶのに面倒臭そうだという事くらいだ。この大きさになると。

「すご……い……」

 レビエリが眼を瞬かせる。

 別に凄くはない。凄くはないが、美少女にそう言ってもらえて嬉しくないわけがない。
 素振りくらいしてみせようかと思ったが、武器庫が狭すぎて振れそうもなかった。

「力、強いんですね……」

「握力25キロしかないけど……」

「握……力?」

 大剣を元の位置に戻し、もう一度武器庫内を見渡す。
 勿論レアリティ判定はかけ続けている。聞いた話では魔力のようなものはあるらいしが、レアリティ判定ではほとんど使用されないようだ。使いすぎるとだるくなるらしいがまだ一度も味わったことがなかった。

 大剣もいいが取り回しが面倒くさすぎる。もっと使いやすいのがいいだろう。
 ちらりと後ろを振り返る。こわごわと武具を見ている精霊の少女を。
 レベルを上げる条件がまだよくわかっていないが、少なくともRPG的に言えば魔物を倒さねばならないのだろう。その際に俺に必要なのは、お荷物を守り切るだけの武力である。
 リーチの長い大剣は以ての外だ。重くて振り回せないならまだいいが、あの剣だと振り回してしまえる。となると、器用でもなんでもない俺には側にいるレビエリを誤って切り捨てる可能性があった。そうなってしまえば目も当てられない。

 同じ理由で槍も却下。かといってリーチが短すぎると今度は魔物に当たらない可能性がある。
 首を傾げながら選んだのは片手剣と棒だった。
 弓は無理。きっと当たらない。
 槌や大斧など攻撃力が高そうなものも使えそうだったが、街中で持ち運ぶが大変そうだ。

 片手剣は片手剣である。片手で振るように設計されたリーチの短い剣だ。
 だが、同時にただの片手剣ではない。
 目を見張る程に美しく、柄を握ると吸い付くように手にしっくりくる。
 何製なのか知らないが青白い金属で鍛えあげられた細身の剣身は武器庫の薄ぼやけた光の中で神聖な輝きを見せている。。レアリティはAランク。つまりはレビエリと同等のランクである。
おそらく魔法の品なのだろう。同じ形、同じ重さの剣があってもこうはいかないはずだ。

 重さも大剣よりは軽く、これならば長時間振っても疲れないだろう。

「こんなのどうだろうか?」

「……いいと……思います」

 レビエリが興味なさげに視線を逸らした。
 仮にも聖剣なのだから、同じ剣に対して思う事はないのだろうか?
 まぁ、対抗意識を燃やされても困るからいいか。


*****


 レビエリを連れ添ったおかげで、今まであれだけ頑なに通してくれなかった門番があっさりと扉を開いてくれた。
 口ひげを蓄えたおっさんだ。名前はなんと言ったか……紹介はされたが、覚えていない。
 兵士らしく筋骨隆々としたマッチョであり、背丈も百七十センチ程ある俺よりも頭一個分大きい。鎧も傷だらけで歴戦の猛者という雰囲気がある。

 道行く人が見たら、十人に十人が彼を勇者と呼ぶだろう。
 王様、勇者の選定間違えてない?

「その娘が聖剣か……ふーむ、可愛いじゃないか」
 
「……まぁ、可愛いが……」

 今日のレビエリはフードつきの灰色のパーカーを着ていた。どこから持ってきたのか、世界観台無しである。おまけにサイズも少しばかり合っておらず、だぼだぼだがそれが彼女の身体の線を隠す結果になっている。俺の持っていたパーカーにそっくりだが、恐らくそれは俺の深層意識が、知識にある衣類を持ってきたからなのだろう。ファンタジーの世界観でなんでファスナーが出てくるんだよ。

 天候が悪いせいか、道行く人々は大体が長めの外套を来ているが、すれ違うたびにレビエリはその視線を集めていたので恐らくその服装は一般的なものではないはずだ。
 俺も王様が用意してくれた衣類である。軽く、丈夫な布で出来ていてサイズも誂えたようにピッタリだ。その上から紺色の外套を羽織ってている。厚手で水を弾く布であり、血をかぶる事が多い戦士に必須のものとの事である。

 しかし、そんな、ファッションが台無しの状態でも、レビエリは輝いていた。
 可愛い可愛くないで言ったら可愛いに決まってる。
 もう一度言おう。好みドストライクである。後数年も成長すれば、との注釈がつくが。
 だが、残念ながらこれから行くのはデートではないのだ。

 レビエリをちらりと窺う。相変わらず染み一つない白皙の肌に、陽光に驚くほど煌めいて見える孔雀石の眼。
 溜息をついて、屈強な兵士然とした男を見上げた。

「確かに可愛い。凄まじく可愛い。もう箱に入れて飾っておきたいくらいに可愛い、けど……彼女の代わりにあんたを仲間にしたい」

「……おいおいおいおい、王国の期待を背負う勇者様もユーモアのセンスはねえみたいだな。こんな中年のオヤジ捕まえて……」

「いや、もちろんデートするならあんたよりもレビエリだけど、これから行くのはデートでもなんでもないからな」

「がっはっは、そりゃそうだ。だがなあ、俺よりも多分そのお嬢ちゃんの方が強いぜ? なんたって――かの名高き、気静剣だ。その娘の力がなければガーデングルの一族は今頃、地の下だ」

 まぁレアリティだけだったらあんたのBよりレビエリのAの方が上だが、これもどこまで信頼していいやら。
 しかし、また新しい単語が出てきたな。

「ガーデングルってなんだ?」

「ああ……そうか、勇者様は異世界の出身だったな……ガーデングルってのはここから北西に三百キロ程離れた場所にある大聖樹林に住み着く半精霊の一族だよ。身に宿す強大な魔力故に、十年前に魔王軍に包囲されたその一族を救ったのがそこにいる気静剣の嬢ちゃんだ」

 へー。大臣は何も言っていなかったが……ふむ。ちゃんとバックボーンがあるのか。
 聞いた感じだと、いつかその大聖樹林とやらにも行くことになるのだろう。RPGの展開的に。

 傍らのレビエリを見下ろす。
 レビエリはちらりとこちらを見上げたが、すぐに頬を染めて目をそらした。照れているのか。
 あー、こう、ぐっとくるのだ。ぐっと。

 扉から出る寸前に、門番さんに呼び止められる。

「……おい、ずいぶんと軽装みたいだが……準備はできているんだろうな?」

「準備?」

「おいおい、外に出るってのにまさか何も準備してねえのか。地図は? 食糧は? 水は? 薬の類は大丈夫か?」

 そんなにいっぺんに言われてもわからない。
 リアルでRPGやると面倒だな。夢なんだからそこら辺は無視してくれればいいのに。
 当然準備なんぞやっていないが、まぁ大丈夫だろ。

「大丈夫だ」

「……おいおい、じゃあどこに持ち物、持ってるのか教えてもらおうか? 勇者様、剣の一本しかもってねえじゃねえか! 防具はどうしたんだよ! 他のアイテムはどうした? 勘弁してくれよ。こっちは閣下から直々に、勇者様を早死させないように注意するよう命令受けてんだぜ?」

 そんな命令受けていたのか。どうりで必至になって止めると思った。
 冷静に考えて……俺が負けるわけがないというのに。

 さて、どう説得したものか……今から戻って準備するのも面倒くさい。
 というより、何を持っていったものだかわからないのだ。RPGなら薬草くらいでいいのだろうが、ここまでリアリティがあるとなるとそういうわけにもいかないだろう。どれだけこの夢を引き伸ばすつもりだよ、俺。

「わ、私が!」

 首をかしげていると、今まで黙っていたレビエリがいきなり大声をあげた。
 いきなりの反応に、門番さんも驚いたように、俺の後ろに隠れていたレビエリを見る。
 とうの彼女は視線に怯えたように一歩後退ったが、震える声で宣言した。

「私が……準備……してます」

「……え?」

「……おいおい、お嬢ちゃん。どこに持ってるって――」

「ここ……です……」

 レビエリはパーカーの袖から手を引っ込めて中でもぞもぞと動かしていたが、再び袖から手を出した時には小さな指輪が握られていた。
 真鍮のような黄銅色の古ぼけた輝きの指輪だ。
 だが、俺にはその価値が一目で分かった。レアリティS。

 つまりそれ、君よりもレアリティ高いから。レアリティって一体何なんだよ。

「ほう、それは……魔導具か!?」

「は、い。『|次元の指輪《ケイオス・リング》』」

 レビエリの手と比較して、その指輪は明らかにサイズが大きかった。だから嵌めていなかったのだろう。
 それを強く握ると、レビエリが注意しないと聞こえないような小さな声で囁いた。

「オープン・アナザースペース」

 奇妙な光と共に、レビエリの手の先が空中で消える。

 おお、魔法じゃないか……

 初めて見るそれっぽい光景に、目を離せない。
 思えば、ここに来て唯一見た魔法らしき光景はスキルオーブとやらを使用した時だけだった。
 尤も、あれは光が溢れただけで電球でも代行できるが、こちらは地味だがまさしく魔法そのものである。

 レビエリがその華奢な腕を抜き取る。
 その手には、一つの乾いたパンが握られていた。なるほど……道具袋みたいなものか。
 魔法と言われれば魔法だし、便利といえばとてつもなく便利だが、なんか所帯じみてるな……
 まぁ、これがなければリュックを背負って戦わねばならなくなるのだろう。必要と言えば必要だ。

「なるほど……アナザースペースの権能が込められた魔導具、か……一応聞くが、事前に準備すべきものは全部入ってるんだな?」

「は……い……。準備……しました」

 地図。薬。食べ物。水。テント。カンテラ。
 指折り数えるレビエリの様子を見て、門番さんが呆れ顔で俺を見た。

「なるほど……しかし勇者様、いくらなんでも任せっきりってのは……その、これから世界を救わねばならない勇者ともあろうお方にいうのも何なんだが……どうなんだ?」

「……頼んでないからな」

 俺の視線に、レビエリは僅かにはにかんだように微笑み、そっぽを向いた。

 なんという親切設定。ものぐさな俺にぴったりだ。
 何も言わずに事前の準備までしてくれるなんて、剣としての価値はなくとも、気静剣『レビエリ』は俺にとってもしかしたら必要な存在なのかもしれない。

< 第四話 第六話 >
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