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夢幻のソリスト・ウォーカー 第十五話:気静剣レビエリ⑫

 それは、神秘の力だ。
 立ち上る白銀の光は奇跡の名にふさわしく荘厳で、だけど、不思議と眩しくない。俺は魅入られたように目を見開いたまま。その光を見つめていた。
 見ただけで分かる凄まじい力の奔流。成る程、それは聖剣の名に相応しい。

「これが……銀衝剣、リースグラート……」

 そして、光が収束する。光が剣の形を形作る。
 右手に握られていたのは、ただの魔法剣だった頃よりも一回り大きな一振りの剣。ワンハンドソード。
 だが、同時に、手にとっただけで分かる内在する凄まじい力は、魔法剣だった頃には感じられなかったものだ。
 剣身はまるで極光を形にしたかのように鋭く、その刃はかつてのリースグラートを含めても、今まで見たどの刃物よりも美しい。

 触れただけでわかる。これは聖剣だ。
 聖剣としての力に目覚めていなかった頃も凄まじい切れ味を誇っていたが、これはまさしく――別格。

 剣が生きているかのように脈動する。いや、これは確かに――生きているのだ。
 精霊の宿った剣。その武器の意味を、俺はこの瞬間初めて実感した。

 そりゃ宝物庫にも入っているはずだ。そりゃ、勇者に与えるはずだ。

 絶望を齎す漆黒明竜との対比。これはまさに――希望そのものだ。
 あの魔法剣が百本あってもこの一振りには敵うまい。
 分かる。武器に対してド素人である俺にだって分かる。フレデーラが注意しなかった理由がわかる。

 これならば――竜だって切り裂ける。切り裂いてみせる。

「伝わってくる……なんという力。なんという……美しさだ」

『えへへ……勇者様、そんなに褒めないでよ』

 ……まさか意識があるのか。そりゃあるか。

「……喋らなければ完璧だな」

『ど、どういう意味さ! ……ねぇねぇ、そんな事より、振って! 振ってよ! ねぇねぇ、振ってよ!』

 なんか凄い犬っぽいんだけど。
 感動に本人から水を刺され、若干の肩透かしを食らいながらも、右手を振りかぶる。
 目の前には城壁があった。勿論、多少長くなったとは言え、刃が当たるような距離ではない。

 ……

 ちょっと考えて、城壁ではなく方向を変え、森の方に振り下ろした。

 ――そして、俺は自らの用心深さに感謝した。

 衝撃が風を呼び、前髪を吹きさらす。風が入った眼が痛い。だが、その痛みを忘れる程の衝撃。

「なっ……」

 僅か一振りで森が削れていた。
 彼我の距離は百メートルや二百メートルではない。剣身から奔った銀の衝撃は地面を深く刳り大地を疾走し、かろうじて視界に入っていた森の一画を『吹き飛ばした』

 雷鳴を何百倍にも拡大したような凄まじい『轟音』
 弾け飛んだ木がばらばらと空から落ちてくる。

 呆然とそれを成した剣を見る。
 んな馬鹿な……切れ味がいいとかそういうレベルじゃねーぞ。リーチ完全無視じゃねーか。

 ……これを、剣と呼んでいいのか? いや、もうそれはきっと、魔法ですらない。俺が見たことのある魔法はこれと比べたらゴミだ。

「銀衝剣!? 銀衝剣って銀の衝撃が出るのかよ!!」

『凄い? ねぇねぇ、凄いよね? 僕の権能は――切れ味を一万倍上昇させる、『|冷酷なる殉教者《クルーデーリス・マーティ》』、だよ!』

「切れ味!? 今、お前切れ味って言ったな!? これのどこが切れ味だよ、おい! なんか、斬撃が飛んでるんだが!?」

 どういうとんでも武器だよ!
 しかも一万倍って……一万倍って……子供か!
 チートとかそういうレベルじゃねーぞ、おい。
 これなら……子供が振ったって魔王を殺せるわ!
 お前、担い手選ぶ必要ないよ! 担い手を選り好みし過ぎて自我が消えるとか馬鹿じゃねーのお前!

 ああ……もう何もかもが酷すぎて頭が痛い……

 唐突に爆散した森に、黒竜が体勢を変える。そりゃアレだけの体躯を持っていても気にはなるわな。
 遥か上空に見える、ぎらぎらと邪悪に光る深紅の眼が森の奥を観察している。だが、もうそれを狙うまでもない。

「死ね……」

 何を食ったらそんなになるのか。闇色の輝くその巨体に向かって無造作にリースグラートを振りぬく。
 剣身の延長線上を奔った銀の衝撃が風を伴いその巨体に食らいついた。
 巨体が僅かに浮き、地面に吹き飛ばされる。大地が大規模な地震に見舞われたかのように盛大に揺れた。

 揺れる大地の上。地に脚をつけ、必死にそれを観察する。

 だが――ダメージはない。衝撃で押し出しただけだ。
 漆黒の鱗――見掛け倒しではない。恐ろしく堅牢。
 魔法剣の状態でも金属鎧を切り裂けたリースグラートの斬撃を受けて目立ったダメージが見られない。

 馬鹿な……硬すぎる。

 ぞっとしない思い。
 森の一画を吹き飛ばした衝撃が大きかったからこそ、効かなかったのが信じられない。
 聖剣はめちゃくちゃな武器だが、あの竜はさらにめちゃくちゃだ。

 巨体がそれに見合わぬ俊敏さで起き上がる。何気なく動いた尻尾が森の一部を薙ぎ倒す。

 どうやってあんなの倒すんだよ!

『勇者様! あんな、弱い攻撃じゃ、駄目だよ! 斬って! 直接斬って!』

「……まじかよ。直接斬ればいいのか? 直接ならば奴を斬れるんだな!?」

『うん! 斬れる! 間違いなく斬れるよ! だって一万倍だもん!』

 ……あれに近づくのか。

 あれと俺の比較は戦車と蟻のようなものだ。
 一つ一つの何気ない挙動が俺にとっての致命となりうる。騎士団が翼から起こされる風で吹き飛ばされたように。

 近づく? 近づけるのか?
 いや……今は信じるしかない。

「大丈夫よ。リースグラートは馬鹿だけど切れ味だけは最強だから」

「……そうか」

 安心できるアドバイスをありがとう。
 彼我の距離は数百メートル。今の俺の足ならば走破にはそれ程かからない。考えても無駄だ。時間が経てばまた森から魔物がやってくる可能性だってある。

 死の数百メートル。その最初の一歩を踏みだそうとした瞬間、俺はレビエリにまだ手を握られたままである事に気づいた。昏い双眸。

「……勇者、様。初めての『|顕現化《マテリアライズ》』……リースちゃんに取られちゃい、ました……」

 何を悩んでるんだよ、この状況で。てか、この娘、余裕ありすぎだろう。
 うるうると見つめてきても、無理だ。遅かったレビエリが悪い。

 ちょっと拗ねた様子のレビの手を握る。
 ロマンチック。ロマンチック、ねぇ。

 気弱だと思っていた頃はとてもじゃないが出せなかった格好をつけた言葉がスラスラと出てくる。

「……だがまだ勝利を得ていない。レビ……レビの力を……俺に貸してくれ」

「……はい! 勇者様――私の全てを、捧げます」

 竜が咆哮する。音と風の爆弾。だが、そんなものが些事に思える程のエネルギーの発生を感知した。
 大きく開かれた顎に紫紺の光が集約する。

 ドラゴン。ドラゴンの最強の攻撃。
 知識を探るまでもない。竜の最強の攻撃とは即ち――|吐息《ブレス》!

 聖剣の光に匹敵する莫大な光。世界の変質に大地が深く鳴動する。

 あれはやばい。直感するまでもなく見ただけで分かる。触れれば勿論、掠っただけでも――いや、側を通り過ぎただけでも、俺の肉体も魂も全てを破壊する死の一撃。
 リースグラートを見下ろす。銀の衝撃で相殺できるか?
 否、不可能。リースグラートの一撃は所詮。斬撃だ。そういうレベルの一撃ではない。
 
 避けるか? 避けられるか?
 背後に聳える城壁をちらりと見る。

 いや、そもそも――あれを受けて城壁は形を保っていられるのか?
 金属できている壁などあのブレスを前に紙も同然だろう。残る助けはエルフの王が張ったという結界だけだ。結界はあれを防ぎきれるのか?
 例え竜を倒せても――城壁が破壊されてしまえばこの王都は終わりだ。

「……大丈夫、です……私が、います……」

 俺の不安を感じ取ったのか、レビエリがもう一度、一度俺の手を強く包み込んだ。
 気静剣。守りに特化した神性。どれほどの力があるのか、俺は知らない。

 だが、俺はレビエリに笑みを投げかけ、そしてレビエリもただ――微笑みを返してくれた。

「『|顕現化《マテリアライズ》』」

 レビエリの囁く声が、風を呼んだ。
 薄緑の風が左手を中心に集約する。
 リースグラートとは異なる派手さのない静かな反応。だが俺はそれを、とても彼女らしいと思った。

 黒竜のブレスの光は徐々に其の大きさを増している。まるで小型の太陽のように、しかし禍々しく輝く。

 風が発生と同様に静かに収まる。
 そして俺は左手に現れたものを――げんなりした気分で眺めた。
 顕現している最中から気付いていた。左手に握られた硬い感触は明らかに柄ではなかったからだ。

「……どこが聖剣なんだよ。剣じゃねーじゃねーか」

 そこに顕現されたのは――『盾』だった。身の丈全てを隠せる程の巨大な薄緑の盾。
 何で出来ているのかは知らない、穏やかなメタリック・グリーンに輝く表面はとても頑丈そうには見えない。

「……防御性能に特化した剣? おいおい、何が出てくるんだとずっと思ってたんだよ。……これ、剣じゃないよね? 普通、盾って呼ぶよね?」

『わ、私、は……望むなら、勇者様の、剣になります』

 精神論なんて聞いてない。
 この世界は……俺を馬鹿にしている。くそったれが。
 何が聖剣だよ! 聖剣って剣だから聖剣なんだろうが!!
 いや、別に二刀流したかったわけじゃないけどさっ!!

 試しに盾を強く握り、動かす。軽い。何て軽さだ。まるで羽毛のよう……すっごい不安なんだが、今更の話か。
 軽ければいいってもんじゃないんだなぁ。

 レビエリが叫ぶ。

『勇者様! きます!』

「ぐっ……」

 光が、風が、力が集まる。
 身体が引きちぎれそうな強い殺意。溜めは長いが、その威力は見ずとも分かる。

 それを止めるべく、リースグラートを振りぬく。銀の斬撃が竜の首を確かに斜めに撃ちつけるが、その山のような巨体は僅かに後退るだけで怯みすらしない。
 城壁に取り付いていた際はバランスが悪かったが、地面に足が付いている状態では時間稼ぎにもならないか。

「く……ダメだ。行くっ!!」

 恐怖を封じ込め、一歩を強く踏み出した。一歩を進めてしまえば脚は、身体は、勝手に動いた。
 黒竜に向かって疾走、同時にリースグラートを二撃、三撃と振る。
 漆黒明竜の巨体。攻撃を外そうと考える方が難しい。

 竜の眼は既にこちらを捉えていた。

 衝撃を放ってくる虫けら。
 城壁の側にいてはダメだ。レビエリの盾は大きい。大きいが――当然、城壁全体を守れる程の起きさはない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 一歩進むたびに強くなる威圧。止まってしまえば二度と動けなくなるんじゃないかという衝動。
 恐怖に打ち勝つためにただ、咆哮した。

 ダメだ。遠距離からの攻撃は通じない。懐に入られるまで待つつもりはないのだろう。

 竜がその顎を大きく振る。|息吹《ブレス》の予備動作か!?

 とっさに盾の縁を強く地面に噛み合わせる。
 あの巨大なエネルギーを前に、この盾の何てちっぽけな事か。
 薄緑の金属で出来た盾の裏が俺の顔を反射している。恐怖に引きつった醜い表情。
 衝撃を少しでも耐えられるように、リースグラートを地面に強く突き刺し、盾の裏に身を縮める。

 風のなる轟々という音。世界が現実感と切り離される。
 絶望感が魂を揺さぶる。

 負けないはずだ。負けるわけがないはずだ。死なない。死ぬわけがないはずだ。
 言い聞かせる。それだけが俺の心の支えだった。
 これはいつ覚めるともしれないただの夢。だから俺が恐怖を感じる必要もないのだ、と。

「……レビ……負けたら悪いな」

 盾が軟弱な俺の言葉に呼応するように強く光を放つ。

『大丈夫……負けま、せん。勇者様、ですから』

 ああ、何度も聞いた声。
 何故か安心する。
 そうだ、俺は勇者。今の俺は高校生じゃない、勇者なんだ。
 ならば、そう――まだ魔王と相対しているわけでもないのに、負ける『わけ』がない。

 その時、いつもと同様の囁くようなレビエリの声がした。

『|静寂《マエスティティア》|の《・》|領域《テッラ》』

 彼女の『|顕現化《マテリアライズ》』の際と同じ、薄緑に色づいた風が吹く。
 何が起こっているのかわからない。状況を確認したいが、防御態勢を取った状態で、頭を出すわけにもいかない。
 レビエリが防御性能の高い聖剣である事を考えるに、リースグラートの権能が切れ味(?)の向上だったように、防御強化のスキルだろうか?

 その時、ふと、気づいた。
 右手のリースグラートが……がたがたと震えている。

『レ、レビ先輩……本気だ……勇者様、駄目だよ! 離しちゃ駄目だよ! 絶対に僕を離さないでね! や、約束だよ!?』

「……へ?」

 何それ、レビ、君、何やってんだよ。
 慌てて力を入れなおしてリースグラートをしっかりと掴む。

 聖剣が……地形を変える程の聖剣が怯えてるんだが。

 え? 盾だよ……ね?
 あれ? そういえば……えげつない……盾?

 そのまま数十秒待機する。何も起こる気配がない。特に何か変わった様子もない。

 何か起こった様子も――

「……」

 俺は盾の上部から恐る恐る、頭を出した。

 攻撃が……来ない。まさか、特に何の衝撃もなく気づかぬうちに防ぎきった?
 溜めの状態ですら世界を揺るがすあのブレスを?

 いつの間にか殺意が消えている。身体が締め付けられるような威圧が綺麗さっぱりなくなっている。

 だが、俺の視界に入ってきたのはその予想すら超えるものだった。

 竜は生きている。健在だ。当然傷一つない。見上げんばかりの山のような漆黒の巨塊。
 だが、ブレスは影も形もない。いや、振り上げていた頭も既に下ろし、その翼もたたみ、地面の上で横たわっている。

 大きすぎて、停止していると本当に山のようにしか見えない。一度視認していたので、かろうじて頭の部分だけが分かった。其の何恥じぬ、まるで闇を形にしたような巨竜。
 だが、深紅に染まっていた眼球は見えない。瞼を閉じているのか。

 竜は猛っていた。ただ一人抵抗する俺に。
 その気が変わり、攻撃をやめたとはとても思えない。だが、今こうして俺は生きている。

 呆然と盾を見つめる。

 その瞬間、理解した。これが、これこそがレビエリの力なのだ。
 攻撃ではない。防御でもない。魔物の『気』を『静』めるための――聖剣。

 戦いを厭う聖剣。
 気聖剣――レビエリ

「……え、ええ……は、反則だろ……」

 万物を遮断する最強の盾とかその辺りを想像していたのに……
 全然盾としての形状が意味を成していねぇじゃねーか!

 確かに、確かに強いのだろう。ただ眼を閉じたまま蹲る漆黒明竜を見る。
 山のように上下する身体。さすがにここまで動きが小さいと、周囲への被害もない。

 他の聖剣達が恐れていた理由を理解する。確かにこの能力は――脅威だ。
 初手を取られれば打つ手がない。

 そして、盾から声が聞こえた。

『さぁ、勇者、様……この隙に、リースちゃんで、漆黒明竜の首を、刎ねて……下さい』

 え、えげつねえ……



< 第十四話 Epilogue >
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