夢幻のブラッド・ルーラー Prologue
耳朶を通り抜ける悲鳴。
足元に広がる藍色の魔法円陣は今まで僕が見たことのあるあらゆる召喚魔法とは異なる摂理で描かれていた。
召喚魔法。召喚魔法である。足元に広がる藍色の魔法円陣は今まで僕が見たことのあるあらゆる召喚魔法とは異なる摂理で描かれていた。
|召喚魔術師《サモナー》のクラス保持者が使用する、他者を召喚するための魔法群を主に指す言葉で、それは一般的に極めて魔力消費の高い転移系魔術の術式を高度に洗練し、並程度の魔術師でも扱える程にコンパクトにまとめた高等術式でもあった。
同時に、それは極化を招いており、使用する際に描かれる|召喚陣《サモン・サークル》を見れば何のスキルを使われているのか明確に分かるという特徴があった。余計なものを削ぎ落した結果はいつも収束されるものだ。
だから誓って言うが、僕がその術式に対する対応が手間取ったのは決して油断何かじゃない。むしろ逆に、見えすぎていたのが問題だったのだ。
その術式は|召喚術《サーモニング・マジック》のSの単位を一年で取得した僕の知識体系に存在しない召喚陣であり、好奇心を酷く刺激されるものであり、ついついその魔法陣の全容を見るためにその場でジャンプしてしまって――故に、一歩逃げるのが遅かった。
身体が世界のどこかに引っ張り込まれる感触。
気がついた時には、僕に出来る事は……深い藍色の術式光に照らされた僕を救おうと手を伸ばしてくる少女に対して『|命令《オーダー》』する事だけだった
少女の表情が悲哀に歪む。
その表情に痛む心を抑えながら、安心させるように笑顔を作り、そして――世界が大きく歪んだ。
******
「おお、|反勇者《アウター・ブレイブ》よ。よくぞ参った」
|不死者《アンデッド》
|悪性霊体種《レイス》の一種で、極めてダメージ耐性に秀でた個体を指す。
基本的にレイスは霊体種といい、肉体に殆ど依存せず寿命が存在しないのが特徴の一つだが、不死者はそれに拍車をかけてこの世界の現象から外れた存在だ。
奴らは本当に死ににくい。莫大なHPか、強力な再生能力か、はたまた不死の概念を有しているか、共通しているのは奴らを滅ぼすのは本当に手間だという事だ。
だから、悪性霊体種と戦うのならば僕は彼らと対となる正の魂――|善性霊体種《スピリット》を連れてくる事をおすすめする。そうでないのならば、事前に敵対種の事を仔細に調べ、いついかなるシチュエーションでも対応できるように、聖の属性を保持したアイテムなどの準備を欠かすべきではない。
何を言いたいかというと、目の前にいる男――僕を召喚した術者らしき金色の髑髏は間違いなくそれに区分される存在だという事だ。レイスは基本的に高位になればなる程に人の形を得るが、人の形を保たずに言語を操る程の知性を持つに至ったものは例外的に非常に危険だ。これはセオリーである。
歩く骨としては種族ランクFの|骨人《スケルトン》が非常に有名だが、奴らは言語能力を持たない。というか、金色の髑髏なんて僕の知識の中には存在しない。もしかしたらレイスを専門に操る死霊魔術師ならば判断がついたかもしれないが、僕はそこまでレイスに傾倒していないのである。
身の丈は二メートル。骨格はプライマリーヒューマンのそれに酷似しているが、身体は漆黒のローブに覆われていて定かではない。袖から伸びでた腕も同じく金色の骨であり、そこに握られた錫杖から察するに彼は神職なのかもしれなかった。
「んー……」
周囲を見渡す。そこは祭壇のようなものが設置された部屋だ。
壁も床も灰色の石で出来た閉鎖的な空間。地面に描かれた血の魔法陣。
どう考えても良からぬものに召喚されてしまったようだ。
おのれ、珍妙な魔法陣を使い僕の興味を引くとはなんという策士……
「アウター・ブレイブ……か……聞いたことないなあ」
真っ先に僕の名前を言わなかった辺り、僕の事を狙って召喚したわけではなさそうだ。
むしろこの淀んだ空気、どちらかというと僕よりは『連れ』を召喚しようとした可能性の方が高いだろう。勿論そんな事を許容するつもりはないが、この眼の前のゴールドなスケルトンも存外に不運なのかもしれない。
今のところ殺意は、殺気は感じない。殺すために召喚するなど、どう考えても非効率だ。それならば普通にさらってきたほうが早い。
骸骨がカタカタと笑う。本来なら怖気を感じる光景だが、見ていたら何かもう慣れてきた。
いや、慣れたというよりは、僕はもともと職業柄そういうのに酷く寛容だとでも言うべきか。
「然り! 人族の扱う|勇者召喚《サーモニング・ヒーロー》と対になる|暗黒召喚《サーモニング・ヴィシャス》により召喚させていただいた。勇者と対となる存在――|反勇者《アウター・ブレイブ》として!」
「反勇者……」
随分と響きの悪い事だ。
そりゃ、昔も勇者としての資質はないとは言われていたが、それは筋力と魔力を始めとした身体能力が低かったからであって、反勇者などといういかにも悪役じみた者として呼ばれる筋合いはない。
骸骨の隣に佇んでいた闇を形にしたような全身鎧がくぐもった声を上げる。
「フォルトゥナ様、人族が出てきたようですが、召喚は失敗では?」
「心配はいらぬ。暗黒召喚は確実に遂行された。私には見える、人に見えるがこの男の邪悪――並大抵のものではない」
ちょ……邪悪とか言われちゃってるし。
酷い言われようだ。仮にも人に仇なす悪性の本性を持つとされる悪性霊体種に言われるような言葉ではない。
少なくとも、現段階で僕がそれをなしたことは――一度もない。
……まぁ、いいか。それはおいおい話し合っていけばいいだけの話。出来るなら理解して欲しいが、最悪理解出来ないのならばそれはそれで……是非もない。
前回の事例があったので、今回の僕はちゃんとアイテムを保持しているし、そもそも、今回の事例は理由が目の前にいるのだ。なんというイージーモード。
敵意はなし。殺意もなし。
見たことのない悪性霊体種の召喚されるというレアな経験。果たして前世でどれだけの善行をつめばこれほどの幸運に見舞われるのだろうか。
よく見れば隣の鎧も見たことがない種だ。いや、もしかしたら金属鎧に悪霊が乗り移って動かしているだけかもしれないが、それにしても人語を介している辺り相当に高位の悪霊。
「確かにこの男、我らを見て恐怖は愚か微塵も眉を動かさぬこの胆力、混乱している様子もない。只者ではないでしょう」
「然り。くかかかかかかかかかかか、これで――我らの勝利は揺るがぬ!」
僕を無視して盛り上がっているようだが、知性はそれほど高くないのか? 文化の差異か?
魔法陣を観察する。しっかりと脳内にそれを焼き付けつつ、目の前の召喚主にファーストコンタクトを取った。
「それで、ここはどこの地方ですか? 境界の北ではないですよね? いや、まずは……貴女の名前を教えて頂けませんか?」
「……今回の|反勇者《アウター》は随分と生きが良いようだな……」
「……どうやら私の見間違いだったようです。人族にここまで平然と話しかけられるような事、あっていいわけがない。私に真の能力を気取られないクラスの――高位の|悪魔《デーモン》か邪神の類でしょうか……」
「やもしれぬな。だが、どちらにせよ我らは――運がいい」
なんという酷い言われよう。僕が何をやったというのだ! 無罪を主張するぞ僕は!
あらゆる悪を挫き弱きを助け闇を払いついでに光も払ってギルドからSSS級の称号まで貰ったこの僕が事もあろうに邪神の類?
分かっていない。分かっていないよ、その召喚術式。多少法を犯した所で僕はあくまで――正義であろうとしているというのに。
「して、反勇者よ。そなたの名前を教えておくれ。我が名は虚無王オルハザード配下の軍における魔族の強化を担当しているフォルトゥナ、この隣のは我が片腕で、|叫びの鎧《スクリーム・ガード》のハインド」
「フォルトゥナ様は軍の中でも随一に重要な地位に付いている、三人の幹部の内の一人であらせられる。分を弁えるがいい」
偉そうな鎧と骸骨。実際に偉いのだろう、その身から感じる力の大きさはSSS級の悪性霊体種を滅ぼした時に感じたそれに勝るとも劣らない。
魔族の強化……ねぇ。つまり、こいつを滅ぼせば魔族とやらは大きく弱体化するわけだ。
いや、勿論事情も聞かずにすぐに滅ぼすわけではないが、それは僕の選択肢の一つに入るだろう。義とは決して――頼まれて執行するものではないのだから。
ともあれ、虚無王オルハザードの名前も聞いたことがない。
口ぶりからすると有名な名のようだが、随分と遠くに来てしまったようだ。
僕は満面の笑顔で、もしかしたら敵となるかもしれない二人に挨拶を行った。
やはり、僕は探求者の神に愛されているみたいだね。
「初めまして、フォルトゥナ閣下。召喚頂き、光栄です。僕の名前はフィル・ガーデン。プライマリーヒューマンのフィル・ガーデンです」
「……あ、ああ……」
第一話 >
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もうなんか色々と笑ってしまう
彼らはフィルの好奇心の犠牲になったのだ
いやもうまじで邪神より質悪いの召喚しちゃったな…
アンドロイドで読んでいると所々たて線|が入るのですが。勇者召喚の前とかに。何かの記号でしょうか?
骸骨さん女みたいだしこれはすけこまされますわ
> もうなんか色々と笑ってしまう
書いて投稿した後に、何で私はこれを投稿したんだろうと思ってしまった、
そんな作品になります(ノ∀`)タハー
> 彼らはフィルの好奇心の犠牲になったのだ
> いやもうまじで邪神より質悪いの召喚しちゃったな…
たちの悪さなら邪神にも負けない!
> アンドロイドで読んでいると所々たて線|が入るのですが。勇者召喚の前とかに。何かの記号でしょうか?
ルビの設定ですね。
なろうの方だと自動的にルビがふられるのでつい……
> 骸骨さん女みたいだしこれはすけこまされますわ
暗黒召喚は人の使っていた召喚術を改良したものらしいです。
ちなみに、髑髏は骨格が女。果たして女性に分類されるかは不明
それそれ。
ブログだとルビは難しそうです。
どっかの聖剣と完全に合致してた(´・ω・`)
>
> どっかの聖剣と完全に合致してた(´・ω・`)
完全に一致……
虚無王は 逃げ出した。
しかし 回りこまれてしまった