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クリスタルマギカ第四話


 
 
 最悪とは何か。
 かつて会った能力者は最悪とは死だと断定した。
 月並みな答えだと思う。
 命あっての物種という言葉もあるし――
 まぁ、大体の人にとって最悪というのは、その生命を失う事を差すのではないだろうか?
 自殺する人間にとってそれはおそらく違うのだろうが。
 
 
 では、二番目に不幸な事とは何か。
 かつて会った能力者は、その己のクリスタルマギカを失う事だと定義した。
 能力者の八十パーセントは、その身に宿るクリスタルマギカを自己を形成している最も大きな要素だと認識しているという統計が出ている。
 結局彼は、自らの能力を暴走させて命を失ってしまったけれど――
 自らを形作る物に殺されて、さぞ本望だったのではないだろうか?
 
 
 ではそうなると、今のこの状況は果たして何番目くらいに不運なのだろうか?
 見覚えの無い場所に、戦闘能力皆無の技術畑の人間が一人。
 眼の前には、かの名だたる敵対組織の能力者。
 拘束はされていなくとも、部屋に唯一存在する扉の前にはその敵が一人。
 壁は一見しただけで、俺如きに破れるものではないと分かる。そもそも、たとえ十数センチの薄い壁だったとしても俺には破れない。
 発泡スチロールで出来ているならおそらく破れるだろうが……ダンボールだったら危ういかな。デスクワーク専門の人間を舐めるな!
 まー普通にそんな耐久力のない材料で建物を作るわけがないから仮定するだけ無駄だけどね……
 
 あーどうしてこうもまあ俺は運が悪いんだ。
 
 
 みんな死ねばいいのに。
 
 
 

 
「第三研究所の方で間違いないですね?」
 
 
 確認するように繰り返される言葉。
 どこか冷ややかな瞳が、多分素なんだろうが非常に心臓に悪い。
 
 死の宣告に見えるのは気のせいか?
 
 ははは、下手したらあのまま死んでた方がまだよかったかもしれないね。
 まぁ、生き延びてしまったからには死ぬという選択肢はもうないんだが……
 生物の生存本能って凄いね。
 
 
 
 
 
 
「だったらどうする?」
 
 
 
 
 ベッドから飛び起き、上から覗き込むような耐性でいたモノトーングレースケールを突き飛ばす。
 異能を持っていても、それが発動する前に倒してしまえば意味がない。
 幸いな事に、俺とこの少女では体格が違った。
 成人男性と、いくらか年下に見えるこの少女ではそもそも人間の種としての雄雌の力の差が存在している。
 情けないことに、閃と俺とで力比べをしたら圧倒的に閃の方が強いのだが……この華奢そうな少女にそんな力があるとは思えない。おそらく、グレースケールの能力は肉体ではなく精神で操るものなのだろう。
 突然突き飛ばされ、目を回しているグレースケールを尻目に、扉を蹴破るようにして開ける。
 幸運の女神は俺に微笑んでいた。
 左右に広がる通路に人影はない。
 
 
 
「あばよ」
 
 
 颯爽と身を翻し、俺は振り返る事なく右の通路に向かって飛び出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 みたいにならないだろうか……
 
 妄想している俺を、怪訝そうな顔でグレースケールが覗き込んできた。
 
「何をぶつぶつ言ってるんですか?」
 
「なんでもないです……」
 
 
 身体が動いたらなあ。
 ぎしぎし痛む肉体が本当に恨めしいわ。
 どっから妄想だったかって?
 あーそれはもう「だったらどうする」って答えたところからさ。不利な状況でそんな台詞吐くなんて正気の沙汰じゃないでしょ?
 だからこそ、素面でそんな台詞を吐ける閃やら龍やらが主人公だってことさ。彼等はそーいう意味でも特別なんよ。
 
 
 脇役の俺に出来る事といったら――
 
 
「ぐっがああぁあああッ!!」
 
 
 突然胸を押さえ、苦しむ振りをする。
 白衣を掻き毟り、苦悶の表情を作り、絶叫する。
 命がかかっているから本気だ。おそらく、酷い顔をしているだろう。
 
 だが、決して不意を突こうとしているわけではない。だって身体痛くてうごかねーし。
 敵兵を自営に引き込むほど、優しげな性格をしているこいつならきっと助け起こそうとして――
 
 
「……何してるんですか? 痛くも何ともないでしょう?」
 
 
 その言葉に、俺は苦しむ振りをやめた。
 断定しているような自信満々な口調。それなりの根拠があるのだろう。
 あるいは、この女の能力に関係しているのかもしれない。
 
 
「分かるのか。クソッたれ」
 
 なるべく平然とした口調で言い捨てるように言葉を出し、手をグレースケールに向かって握手するように差し出した。
 まるで起き上がらせてほしいとでも言うかのように。
 
 
 俺が彼女の立場だったら、絶対にその手を取ったりしない。
 
 クリスタルマギカには、いくつか能力発動に条件がある。
 例えば、閃の発動条件は身体を動かす事だったし、龍の発動条件は電気を浴びる事だった。
 俺の場合は、直接身体、或いは身に着けてる衣類で対象に触れる事。
 
 
 俺が彼女の立場だったら、絶対にその手を取ったりしない。
 敵兵が大人しく寝ているという事は、その敵に遠距離の相手を攻撃する手段が無いという事を意味している。
 つまり、それは、今その場所で自分は敵の領域にいないという事だ。
 誰がわざわざその敵の領域にのこのこと歩み寄ろうか。
 少なくとも俺なら絶対にしない。
 
 
「起き上がらない方がいいのでは?」
 
 
 少女の優しい性根に涙が出る。
 甘い。甘すぎる。こんなの相手に閃と龍は手間取ったのか。あまつさえ敗北したのか。
 もし仮にそうだとしたのなら、俺は閃と龍を高く評価しすぎていたという事になる。
 
 
 
「ところで、名前は何ていうんだ?」
 
 
 この年頃の女の子特有の、微かな熱を帯びた手の平が俺の手を包むのを確認して、
 
 
 
 
「名前――私は――」
 
 
 
 
 俺は自らに宿るちっぽけな能力を発動させた。
 
 
 
「――ッ!?」
 
 
 グレースケールの目が一瞬見開かれる。
 俺は、この攻撃に耐えられた者を誰一人として知らない。
 主人公たる閃と龍ですら――俺の知の半分も受け持つ事はできなかった。
 二十年の間俺が必死で蓄積した知識を一気に他者の脳内に流す対人用の精神攻撃。
 その流れ来る大量の知識によって相手の意識を昏倒させるこの技を、人はこう呼ぶ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……ごめん。考えてなかった。
 
 
 だってこれ俺の切れる数少ない札だし。
 名前をわざわざ考えるほど使用しないよ!
 知れ渡るほどに公然と使わないよ!
 
 
 一拍空け、声一つ立てずに、ゆっくりと少女の身体が倒れてくる。
 
 
 
 
「名前、けっきょく分からなかったな」
 
 
 
 
 俺は、ベッドに倒れこんでくるその身体をぎりぎりで支え、窮地を脱した事にようやく一息ついた。
 まったく。直撃していたら俺の身体がどうなっていたやら。
 ただでさえ痛むってのに。
 
 


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