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夢幻のブラッド・ルーラー 第十一話:ガルダー教国の聖剣伝説①

「聖剣……ですか……」

「多分、十中八九間違いないだろうね」

 タダを含めた八人の僕の手足となるべきメンバーが僕の部屋に集まっていた。

 まだ地下牢に囚われていた頃の影響の抜けないメンバーもいる。血色の悪いメンバーもいるし、足を引きずっているメンバーもいる。だが、その眼には生きる意志があった。
 流石に心が死んでいる者を操るのは難しい。機械的に動く人間なんて僕にはいらない。感情は時に爆発的な力を生む。魔物使いだった僕がよく知っている事だった。

 タダ達、囚われていた集団は僕がこの地に来て手に入れた第一の武器と呼べるだろう。
 クルススは交互に行った質問で僕のスキルなんぞ聞かずに、僕の武器について聞くべきだった。あるいは――オープンブラッドで表示された性格を聞かれていたら、誤解を解くのに多大なる苦労がかかっていた所だろう。

 だが聞かれなかった。人はそれをきっとそれを運命と呼ぶ。

 椅子に腰をかけ足を組む僕に、八対十六個の眼が向けられている。指示を待つ表情。畏れの表情。緊張した表情。それらに軽い笑みを向ける。

 全員を集めたのは、人里に向かった際の動きについて最終確認を行うためだった。そして、ついでに八個も頭があればまぁ、どれか一つくらいは僕の役に立つ情報を持っているだろうという思いもある。

「尋問官のジーンにも確認した。少なくとも、クルススへの尋問の内容は間違いないだろうね」

 ジーンは尋問する事には慣れていても尋問される事には慣れていなかった。
 例えハインドさんから止められていても、身体の、心の反応はごまかせない。ちょっと手を変え品を変え確認したら情報の正誤は容易く分かる。

 八人の手足の中ではリーダー的存在のタダが、一度ごくりと息を呑み込み、掠れた声で答える。

「伝説に謳われるような武器です。存在は知っていても詳細はわかりやせん」

「存在自体は疑いない。圧倒的な戦力を誇る魔王軍が二の足を踏むくらいだからね」

 人族の寿命は魔族と比べて短いみたいだし、人間の中では伝説でも魔族から見たらリアリティを持った事実なのだろう。
 取捨選択をしなくてはならない。大切な情報と不要な情報。ハインドさんが血眼になってそれを探しているのだ、それを先んじて手に入れて献上すれば信頼を得られる。場合によっては献上しなくても――。

 まだ全容は見えなくても、それが切り札となりうる事は分かる。今はそれだけで十分だ。

 メンバーの中の一人。最も年配の男――ガーリー・フライドがしわがれた声をあげた。

「精霊の宿りし人智を超えた武器、それが――聖剣とされています。聖剣の伝説は――ここだけでなく各地に存在していたはずです」

「精霊の宿る人智を超えた武器――実在性はどうなんだ?」

「精霊の宿った武器の存在自体は……確実かと。この大陸ではありませんが、目撃者も大勢いたはずです」

 ガーリーの眼はやや濁っていたが、その声には確信があった。
 そして、ガーリーの言葉を聞いた周りのメンバーの反応。そこから、それが確実に存在している事を確信する。
 精霊の宿る剣。一振り存在しているのならば、複数存在していてもおかしくない。そして、それがガルダー教国に存在していたとしても。

 まぁ、ここまでは――ハインドさん達の動きからなんとなく想像がついていた事だ。
 タダが緊張の滲んだ表情で続ける。

「ガルダー教国にも聖剣伝説は存在します。なんでも――解放すれば一撃で数万の軍勢を全滅させる程の威力だと」

「一撃で数万……か。それが本当ならば――圧倒的だ」

 数万。数万である。例えここに元の世界で従えていたスレイブがいたとしても、一撃で数万の軍勢を全滅させるのはかなり難しいだろう。
 それはもはや天変地異と言った方がいい。数字だけ言うとそうでもないが、数万の軍勢とは地平の彼方まで見渡す限りに並ぶ兵たちを示している。

 火か風か水か。その伝説がもし真実だったと仮定するのならば聖剣の力は魔法的な能力だ。それも並大抵の魔法ではない。環境を変動させるレベルの――大魔法。

 馬鹿げた話だが、だからこそ信憑性もある。なんたって、命を持たないアンデッドの軍勢が恐れているのだから。
 腰を据えて、両手の指を組み換えし、タダの方を見下ろす。

「他に情報は? 聖剣の具体的な使い方とか、聖剣の形とか」

 数万の軍勢を打ち倒す一振りの剣。それが真実であるのならば、他にも何かしら情報があるはずだ。
 しかし、僕の問いにタダは情けない表情で首を横に振った。

「それが……ないのです。ガルダー教国に伝わっているのは聖剣の存在と、その威力だけで……詳しくは何も」




§



 タダとその他七人の老若男女から聞き取ったガルダー教国の聖剣伝説はとても単純だ。
 その辺に転がっている英雄譚とそれほど変わらない内容である。

 伝説は遙か昔、まだガルダー教国が国と呼べる規模ではなかった頃、ガルダー教国の聖都の前身であるガルダーの都が、海の向こうからやってきた、人智を超えた力を持った大悪魔率いる魔の軍勢に襲われた所から始まる。
 ガルダーの都は当時の大陸では有数の人口を擁していたが戦力差は大きく、都は瞬く間に劣勢に立たされた。
 街には炎が放たれ、逃げ遅れた殆どの民は魔に囚われその下で死ぬまで働く奴隷となった。しかし、街が滅びるその寸前に、英雄が現れる。それがガルダー教国の初代国王となった少年だ。

 魔に攻め入られ戦火に包まれた都を命からがら逃げ出した少年は、一人、都の奪還をその胸に、大陸に存在する数多の村や街を旅する。もちろん、その旅は楽なものではない。様々な試練やら葛藤やらが降り掛かってくるが、この辺はまぁ割愛しよう。
 数年の時を経て成長した青年は、旅の途中で見つけた聖剣にその旅で得た知恵を認められ、聖剣の力の使用許可を得る。
 青年は魔の手に完全に落ちていたガルダーの都に単身突入すると、聖剣の力を解放し、都を取り戻した。

 平和を取り戻した少年は人々にその知恵と力を認められ、王となった。
 優れた王を得たガルダーは王とそれに献身的な国民の力により、瞬く間にその規模を拡充し、周囲の村や街を取り込み現在のガルダー教国となった。
 王の力の象徴であり、救いの象徴でもあった聖剣は大陸のどこかで今も人々の平和を見守っている。

 めでたしめでたし。

「この大陸にいれば子供でも聞いた事があるガルダー建国にまつわる聖剣伝説です。それを証明するかのようにガルダー教国はフォルトゥナがこの大陸に現れるまでは有数の平和な国でした」

 タダが語り終える。話している間も周りのメンバーがところどころ補足してきたが、大筋は変わらない。
 面白い話である。王道と言えば王道でもある。

「聖剣が今どこにあるのかは言及していないのか」

「そうっすね……どこかで平和を見守っている、とだけ」

 面白い話である。この伝説は聖剣伝説であって、ガルダー教国の建国記でもある。にも関わらず、その剣の居場所が全く出てこないというのは不思議な話だ。象徴ならば代々の王に引き継がれているとか、そういった内容でもおかしくないのに。
 伝承なので途中で話がねじ曲がっている可能性もあるが、大陸有数の平和な国だったという言葉が本当ならば、大きく話が乖離している可能性は低い。

 額を押さえ、考える。実は僕はこういう話が好きだ。
 英雄譚だの伝承だの大好物だ。何故ならばそれは身体が弱かった僕にとっては――憧れだったからなのかもしれない。

 今の話には違和感が幾つかあったが、まず重要な点から確認する。

「聖剣の力ってのは一体何なんだ?」

「? 魔を退けたらしいので、そのような力では?」

 タダが瞬きをして、不思議そうな表情をつくる。

 勇者の少年の冒険譚は数々に渡る。
 最後は都の解放で終わるが、むしろ聖剣伝説はそれまでの経緯の方が長い。

 知恵と勇気で旅先の村を盗賊から守ったり、欲深い奴隷商人の奴隷狩りを切り抜けたり。件の聖剣も、深き森の奥に棲む魔女と交渉して譲り受けたとされている。

 だが、少年が聖剣を使ったのはたった一回だけだ。都を解放するのに、たった一回だけ。
 聖剣伝説であるにも関わらず、都の解放以外に少年は聖剣を使った描写はなく、そのたった一回の描写においても、ただ都を解放したとだけ描かれている。

 不思議な事に……その時の光景もどんな力だったのかも、全く記されていないのだ。
 こういった伝説にありがちな派手な描写が全くない。
 天から雷を呼び出したわけでも魔の軍勢を炎で焼き払ったわけでもない。

 先程、タダは一撃で数万の軍勢を全滅させたと言ったが、そんなこと今の話の中には出てこない。
 その事を確認すると、タダは申し訳なさそうな表情で頰を掻いた。

「あー……すいません。そっちは、民間の研究で有力とされている説ですね。大昔にガルダーの都が侵略されたのは真実らしく……」

「まぁ……ただの昔話でしょう、殿。どこまで真実かはわかったものじゃありませんし」

 タダの後ろに控えていた、妙齢の女傭兵、ヘンリが訝しげな表情で口を挟む。
 ただの昔話。どうやら、他のメンバーの意見も同様らしい、僕に向けられた視線は物好きを見るような眼だ。

 だが違う。僕にとってこれは手掛かりだ。
 聖剣伝説がガルダーの建国記でもあるのならば、その情報は平和なガルダーにおいてそれなりの正当性を保っているはずである。
 何某かの意図が入って改変されている可能性もあるが、それならそれで、『改変しなければならない理由があった』という事だ。特に、権威に直結する聖剣使用の描写が至って淡白であるのには理由があるだろう。

 面白い。好奇心が唆られる。
 この地に召喚されて……本当に良かった。

「まぁ、聖剣については僕に考えがある。僕に任せて貰いたい」

「ッ!? ほ、本当ですか、殿‥…!?」

「僕は……嘘はつかないようにしているんだ」

 僕の言葉にタダ達に動揺が走る。聖剣の存在が信仰にまでなっている証だ。
 先程ヘンリはその話を昔話と言ったが、彼らの中で聖剣の存在はやはり大きいのだろう。

 最後に一点だけ気になっていた事を確認する。念のために。

「タダ、今の話……聖剣の名前が出てこなかったけど?」

 タダは僕の質問に、畏怖の混じった視線を向けて答えた。

「……聖剣の名前は……不明です。それを知っているのは当時の少年のみだったと……されています」

< 第十話
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175:
聖剣についてフィルに考えがあるとは恐ろしいですね

さすがにフィルのスレイブたちでも一撃で万単位はかなり難しいのか…
できないとは言わない辺りがさすがですね
179:
面白い。面白い。素晴らしい。
185:
フィルさんは相変わらず怖いなぁ。いつも楽しく見てます。続き待ってます
187:
面白い!なろうの方には載せないんですか?
188:承認待ちコメント
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