# クリスタルマギカ第一話

 そしてきょうれつなせんこうがのうりをやいた。
 
 
 
 何が悪かったのだろうか。
 辺りに漂う濃厚な血の匂い。
 草木を燃やし尽くす炎の匂い。
 辺りに響き渡る奇妙な破砕音が耳を打つ。
 
 誰かが肩を揺する。
 もうほとんど抜け落ちた感触。
 触れられているという事実すらあやふやで、あーこれはもうだめかも分からんね、と俺こと如月太郎《キサラギ タロウ》はぼんやりとたゆたう視界を見つめていた。
 

「おい、大丈夫かッ!! くっ……なんて事だ。如月さんが……如月さんが、このままじゃ。如月さんが俺をかばって――」
 
 前後不覚同然の太郎の耳に入ってくる聞きなれた声。
 第三研究室に在籍する二人の前衛の一人、不斬龍《フザン タツ》の声だ。
 
 うっせえ、かばったわけじゃねえ。この主人公が。
 
 一人心の中で呟く。
 
 おそらく、龍は今戦っている強大な敵を、内に秘めたる力を覚醒させて打ち破る事だろう。
 柊閃《ヒイラギ セン》も生き残るはずだ。ヒロインが途中で死ぬわけがない。
 何とか二人で協力して敵を倒し、死していった仲間を思いながらも勝利を祝う。
 数多の試練を乗り越えていく仲で互いを意識しあう主人公とヒロイン。あきれ返るほどテンプレートな展開を、確かに未来に見た。
 
 破砕した瓦礫が、もう動かない身体の上に打ちかかる。
 もう痛覚がなくなっているのか、痛み一つ感じない。
 
 ふざけてる。
 しかしこりゃ参ったね。ラスボスでとうとうへまをしてしまうなんて。
 
 あまりにも皮肉な事実に、自然浮かぶ笑みを見た者は誰一人としていなかっただろう。
 
 
 
 
 思えば、最後になるであろう戦いについてくるように言われた時に、予測するべきだったのだ。
 
 
 
 
 
『そうだな、最終メンバーは龍と閃、川平に美東に私に……如月も着いて来てもらおうか』
 
『ちょ、千継さん。俺戦闘員じゃないっすよ。なんで俺もついていくんですか!!』
 
『如月……お前も一応第三研究室の初期メンバーの一人だろうが。確かにお前は戦闘用じゃないかもしれんが、先輩の意地を見せようとは思わないのか?』
 
『如月さん、大丈夫ですよ。如月さんが戦闘用じゃない事はここにいる全員が知っています。如月さんの事は俺が守りますよ』
 
 
 
 
 
 
 
     戦闘用じゃないのに連れて行かないで下さい
 
 脳裏をさりげなく巡る走馬灯の中には、死亡フラグをばかばか立てられる俺の姿がはっきりと映っていた。
 
 
 
 
 
 思えば、俺はこの研究所に入った時からはっきり言って脇役だった。
 名前も平凡な太郎だ。不斬龍や、柊閃のようないかにもと言ったメインキャラじみた輝きがない。あまりにも悔しくて、苗字で呼んでもらうよう頼んだのだが、顧みるにあまり効果はなかったようである。
 研究所に入りたての頃はそれでもよかった。
 研究ばかりしていればよかったし、人付き合いもそれなりに良好で、そこそこ大学ライフをエンジョイしていたような気がする。
 それが狂ったのはいつからだったっけ?
 
 
 
「龍!! 残念だけど如月はもうお終いよ。もう、目は覚まさない……死んでるわ」
 
「そ、そんな……何故、どうして――俺が、守るって、言ったのに……」
 
 
 バチーン
 
 
 頬を張る音が聞こえた。
 主人公体質な閃と龍の側に居れば自然と聞きなれてしまう、俺をイラつかせる音。
 主人公を立ち直らせるためによく用いられるその行為は、龍本人は嫌がっていたが脇役である俺から言わせてもらえれば万札を払ってでも一度は受けてみたい行為だった。
 死にかけた脇役の側でやる行動じゃねえぞ。おまけに、閃の奴俺が死んでると思ってやがる。まぁ、もう長くは生きられないだろうけど……それにしてもひでえ。
 
「馬鹿ッ!! それで、あんたまで死んだらどうするのよッ!! 今まであんたを守って死んだ人達にどう弁解すればいいの!! 戦いなさい、龍!! それが、私達をミュータスの前まで送り込んでくれた千継さんや、川平さんや美東さんへの、この上ない手向けになるんだから!!」
 
「閃……」
 
 
 
 
 
 俺がいない。
 
 
 分かっていたけど、ちょっとぐさっとくるな。俺は空気か。
 もうみんな死ねばいいのに。お前等も一緒に死んでくれたら少なくとも俺は嬉しい。戦場でいちゃいちゃすんなよ。真面目にやっててやられた俺に悪いとは思わないのか、体力馬鹿どもめ。
 そして、俺はこの瞬間、初めて今まで俺達が追っていた敵がミュータスという名前だと知った事に気づいた。後、遥さんや川平や美東が死んだ事にも。
 
 
 やるせない……
 
 
 
「分かった、閃。俺はやるよ。千継教授や川平さんや美東さんのためにも!! 俺は……ミュータスを倒す!!!!」
 
「分かればいいのよ……龍。私が援護するわ。龍が止めを刺して……私が、全力を持ってミュータスの攻撃を止めてみせる。龍はだからその隙に……」
 
「分かった。……閃、」
 
「まだ何か?」
 
 二人の影が重なる。
 見えないが分かる。なぜなら、それだけがジミーな俺の唯一の取柄だったから。
 こんな戦場の真ん中で、二人はキスシーンだった。
 死ね。ミュータスとかいうやつに殺されてしまえ!!
 
「……死ぬなよ」
 
 主人公の声が響き渡る。返事がないのは、二人の間にそんなものは必要ないからなのだろう。
 
 
 青春してる二人。
 そして、?のためにもって所にはやはり俺がいない。泣きたくなった。つか、ちょっとだけ泣いた。
 
 気配が消え、周囲を静寂が支配する。
 耳が聞こえなくなったのか……いや、おそらく二人が戦場を変えたのだろう。つまりは、この場所はラスボス戦の序盤のフィールドだったという事だ。
 序盤でやられてしまったが、別に寂しくない。遥教授も川平も美東も皆死んだっぽいし。
 あいつ等は脇役だったが空気ではなかった。同じ脇役だが、その脇役のランク付けの中でも上と下は天と地ほどの差がある。ざまあみやがれって気分になった。
 俺かなり働いてたのに……能力が地味だったから、万年空気だ。
 まぁ、空気だったからこそ今まで戦場にも送られず、研究所の初期メンバーの中で遥教授を除いて唯一生き残れたのだろうけど……
 第三研究室の人員は、皆特殊な超能力みたいな力を持っている。いや、研究室自体がその力を研究するために存在している。
 力の総称を、持ち主が皆総じて体内に奇妙な結晶を持っている事から"クリスタルマギカ"と呼ばれていた。
 
 そんでもって、空気な俺が有する能力が"繋げる事"だった。事件のあった場所に一人赴き、床とかに手を当ててその場にあった遺留品から持ち主の記憶などを読んだりするのが俺の最も多く課せられた仕事だった。サイコメトリーの真似事みたいなもんである。多分、皆俺をサイコメトリーだと思っていたのではないだろうか。実質やっていた事は大して変わらなかったのだが、それでも誤解されているとなると嫌になってくる。
 ていうか、本来なら、戦場に連れて行かれるような人材じゃなくね?
 少なくとも俺は、自分の役目が後方支援だとばかり思っていた。
 
「ひゅーひゅーひゅー……――」
 
 もしかしたら、遥教授の嫌がらせで最終決戦の人員として配置されたのか?
 そう言おうとしたのに口からでたのは何かやば気なひゅーひゅーという細い息の音のみだった。
 マジやばい。これ死ぬって。
 
 
 俺の意志を無視して、走馬灯はさらに続く。遡る記憶、俺はようやく自分の人生が狂った瞬間を思い出した。
 
 閃が龍を連れてきた時だ。
 閃が入ってきたのが、一年ほど前。
 遥教授の連れてきた少女は、まさにラノベで言うヒロインっぽい少女で、俺は思わずその姿を見てため息をついた覚えがある。
 正直言って、一目ぼれだった。
 それまでは俺の立場も今と比べればまだ存在感があったし、そこそこ人間関係も良好だった。
 人見知りする体質だった閃に、率先して話しかけ、下心はあったとは言え、俺は研究室でおそらく閃と一番コミュニケーションをとっていたし、俺の容姿は自分で言うのもなんだが可もなく不可もなくな平凡なものだったが、相手が少しでも好意を抱いてくれたら何とかなるかもしれない、と淡い期待を抱いていた。
 甘酸っぱい青春と言う奴だ。
 
 それをぶち壊したのが、主人公そのままな龍である。
 半年ほどたったある日、突然閃が連れてきた一人の少年、不斬龍。
 聞いた話では、"敵"と閃が戦っている最中に誤って巻き込んでしまったらしい。
 
 空高く打ち立てられたフラグ。それは、準空気だった俺にとって如何ともし難い障壁だった。
 
 偶然戦いに巻き込んでしまった少年が、偶然体内にクリスタルマギカを持っていて、適性が高かったためそのまま少女の推薦で第三研究室の新人として迎え入れられる。
 一体何パーセントの確立だろうか?
 風が吹けば桶屋が儲かる的な理論で舞い込んできた龍は、瞬く間に俺にとっての強大なライバルと化した。
 運の悪い事に、龍は攻撃系のクリスタルマギカを所有していた。閃と同じタイプである。訓練のため、一緒に居る時間は自然長くなって当然。
 また、根っからの研究者である俺が、クリスタルマギカを研究するために少なからぬ時間を消費するのはやむをえない事だった。
 時間が経つにつれ、少しずつ俺と閃の接点はなくなっていった。
 気づいた時には空気になっていた。
 
 誰が悪かったとは言わない。
 龍を連れてきた閃が悪いわけではなく、つれてこられた龍が悪かったとも思わない。
 だが、誰も悪くないという事を踏まえて言おう。
 
 死ね。
 百万回死ね。
 天地が崩れ朽ち果てるまで彷徨え。
 
 
 逆恨み? 知ったことか。
 俺は空気だ。どんなに恨まれたって何の痛痒もないだろうさ。
 
 半分死にかけな今の状況。
 いくら恨み言を呟いても、空しさが募るばかり。自分で言ってて悲しくなった。
 だが、その自らへの"憐憫"が、俺の感覚を冴え渡らせる。
 
 こんな所で死ぬもんか。
 手が動かない。
 視界も真っ暗だ。
 音も聞こえない。
 
 オレハココデシヌノカ?
 
 声も出せない。
 痛みも感じない。
 何か動かせるものはないのか?
 何とか現世に――
 
 
 
 モドリタイ
 
 
 おそらく、これは妄執だ。
 童貞のまま死んでたまるか、という生への渇望。
 人に利用されたまま終わりを迎える事への悔恨。
 
 答えは、自分の中にあった。
 まだ動く物。
 あるではないか。たった一つ、まだ微かに鼓動を続けているもの。
 
 
 心臓。
 
 
 
「(CrystalMagica/CONNECTION)」
 
 
 心臓に仕込まれたクリスタルマギカから発生する力が、奔流となって身体中を駆け巡る。
 概念操作『接続』
 概念操作は、クリスタルマギカの中でも珍しい。そして、操者によってはピカイチの性能を誇る。
 伊達に第三研究所の初期メンバーをやってはいない。
 第七まであるクリスタルマギカの研究所。研究所の初期メンバーは皆、クリスタルマギカの先駆者である。
 俺は地味だが、ただの地味な奴ではないのだ。
 
 視神経が"接続"され、視界がクリアに変化する。
 痛覚はまだない。今繋げたらショック死しそうだから。
 サイコメトリーとして俺を使い潰した遥教授等は、果たして俺がこんな力を持っていると知っていただろうか?
 言い訳ではないが、決して隠していたわけではない。聞かれなかっただけである。
 俺としても、今新たな使い方に気づいたのは行幸だった。視神経をインターネットに接続してネットサーフィンするくらいしか使った事なかったから
 手が動く。
 足が動く。
 神経の接続。Connectionの異能の力は、痛覚神経のみをシャットアウトする事に成功していた。
 
 うわ、何かめっちゃ血まみれなんですけど……
 つぶれた足を見ないように何とか起き上がる。
 たらりと垂れ落ちる真っ赤な液体。頭から流れる血液が視界を濁した。
 やばい。かなりやばいけどまだ生きている。
 
 一歩前に踏み出す。
 得も知れぬ気色の悪い感触。つぶれた足が瓦礫を踏みにじる。
 痛みはない。だからこそ不気味だ。
 
 
 一歩前に踏み出す。
 
 さて、これからどうするべきか。
 龍と閃は果たして敵であるらしいミュータスとやらに勝てるのだろうか?
 勝てたとして、それは本当に敵対組織のラスボスなのだろうか?
 今現在戦っている敵は、記憶によると"貴晶結社"と言うなんだかよく分からないマフィアらしい。マフィアって日本にいるのかよ。そんな脳内ツッコミをかました記憶があるので、頭に残っていた。
 しかし相手がマフィアとなると、ミュータスとやらがラスボスかどうか怪しいものだ。
 トップが一番強いとは限らない。国立の研究所に喧嘩を売るようなデンジャラスな奴等だ。たった半年やら一年の間訓練しただけのお子ちゃまにやられる程度の旗は掲げていないだろう。
 俺の根拠のない予想では、ミュータスはおそらく上から七番目くらいだろう。多分、これからもっと強い敵が現われると思う。
 よしんばミュータスがトップだったとして、敵対組織を潰せたとしても、これから研究所に戻るメリットがない。仮に研究所に戻ったら、空気以上のキングオブエアーと成り果てるに決まってる。ラブラブな閃と龍の側にずっといなきゃならないとか、どこの苦行だよ。研究もひと段落したし、もう遥教授もいない。残っているのは研究とは関係のない感傷の残った空っぽの研究室のみ。そんな場所に帰るくらいだったらどっか別の研究所に転属した方がまだマシだ。
 それとも……もういっその事、"貴晶結社"に雇ってもらおうか? 自給千二百円くらいで。
 クリスタルマギカの研究は、まだほとんど進んでいない。研究しようにも、その特徴は全て極秘情報にカテゴライズされており、それを見る事が適うのは政府に選ばれた国立研究所の研究員だけである。俺の持っている情報もさぞや高く売れるだろう。空気な上にラスボス戦だけ巻き込まれた俺には、もはや国立研究所への恩なんて言葉は残っていない。
 
 もう一歩踏み出す。
 
 喉の奥からこみ上げてくる吐き気。
 突発的な嘔吐は瓦礫を紅に染め、俺はようやく理解した。
 
 俺はもうここで死ぬ。
 
 
 能力を使ったから、今何とか歩く事はできている。
 だが、もう俺の命は既に尽きているんだ、と。
 
 空を見上げる。
 薄墨色の夜空に、点々と輝く星月。
 
 
 自然と崩れ落ちる足。
 どうやら、能力も尽きたらしい。
 
 畜生。俺は結局脇役のままだったか。
 
 
 次もし新たな人生を歩めるのなら――
 
 
 
 
 絶対に主人公の側にはよ、ら……な――
 
 
 
 

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