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夢箱?かつて見た夢?・第一話:始まりは突然に

 
 1.
 
 
 僕は草原を走り続ける。どこまでもどこまでも続く黄金色の草葉の中を。
 地平線に見えるはオレンジ色の太陽。
 水平線に見えるのは真っ赤に燃える世界の始まり。
 僕は駆ける、草原の中を。
 自分自身でも理解不能な情動に従い
 何かを目指して――――
 
 
 
 ―――――夢箱?かつて見た夢?
 
 
 
 「助けて」
 そんな風に僕こと杉原爽が突然声をかけられたのは冬ももうじき終わりかなぁ、とかそんなだらけたことを考えながらぼんやりと歩いていた二月下旬のことだった。
 現代日本で普通に道を歩いていて、その用に助けを求められるような事が果たしてどの程度の確立で存在しようか。
 少なくとも、僕の場合においてはその回数は多く見積もっても二、三回程度であり、このような状況に慣れているとはとても言いがたかった。
 だから、かなり切羽詰った様子で迫るその声を聞いても、ある種間抜けな返事しかできなかったのもしかたないだろう。
 「ん? 何か用でも?」
 声をかけてきたのは、高校2年生の僕より5つくらい年下だろう少年だ。おそらく小学生の高学年くらいだろう。
 その背には僕の予想通りの年齢であることを示す傷だらけのランドセルがあった。
 「そこの人、助けて!!」
 突然人に助けを請われる事も珍しい。この場には僕を除いて猫一匹折らず、必然的に助けを求められているのは僕だという事になる。
 なんだろう、小学生には知り合いもいないはずだし。
 最近の小学生は警戒心が強い。見ず知らずの人に――しかも僕のような、見た目高校生の男に助けを求めるというのはよほどの事でも無い限りありうることではないだろう。
 一体何があったんだ?
 僕が返事をせず、考えていると、少年は息をぜいぜい吐きながら、僕の制服の端を引っ張り走りだした。
 子供にもかかわらずずいぶん強い力に、情けない事ながら引っ張られながら走ることになる。
 「んー、一体何?」
 僕の問いに帰ってきたのはたった一言。
 「いいから、速く走って!」
 どうやら、何か事情があるらしい。
 とりあえず手を離してもらい、一緒に走りだす。当然前を走る少年に質問することも忘れない。
 「一体何が?」
 「怪物がくる」
 怪……物?
 その答えに、何か犯罪にでも巻き込まれているのかと邪推し始めていた僕の緊張は一気に霧散した。
 ……驚いて損した。
 馬鹿みたいだ。こんな子供の助けての言葉を本気にするなんて。
 一応後ろを見てみたが何か襲ってくる気配も追いかけてくる姿も見えない。
 子供の遊びに巻き込まれたか。
 ランドセルを見ていると思い出すが、僕も昔こんな遊びをやったような気がしないでもない。
 とりあえず道路を走ると危ない、僕は少年のランドセルの上部を強引に掴み、引き止めた。
 本気で走っていたらしく、少年はいきなりつかまれ、つんのめったところを僕に支えられた。
「何を……」
 何か殺気じみた―――狂気じみた眼光に一瞬怯みかけるが、所詮自分の三分の二ほどしか生きていない子供のこと、力の差は歴然でどうやったってこれから走り出すことはできない。
 僕は軽くため息をついてもう一度後ろを確認する。やはり人はおろか猫の姿一つなかった。
「何の遊びをしようとそれは君の勝手だろうけど人を巻き込むのはダメだと思うなー」
 運が悪いなぁ、いや、いいのかもしれない。行きずりの子供に巻き込まれるってのはなかなかできない体験だ。まあ正直したくもない体験なんだけど……
「遊びじゃねぇ! 本当にやつがくる!」
「やつ?」
 必死の剣幕に少しだけ怯む。子供に怒鳴られる経験もちょっとした覚えがない。
「ああ、鮮血の王、冥犬グリムだ。追いつかれたらお前なんて殺されるぞ」
 なら助けを求めるなよ。
 中ば呆れたような、過去の自分を見ているようで哀しくなる。
 昔は楽しかった。いつか自分にも人生の転機を与えるシンデレラの魔女のような存在がやってくるといつも信じていた。
 自分と他人は違ったものだと思っていたし、特別だと思ってもいた。
 その考えがまったくの見当違いだと分かったときの脱力感や喪失感、そして少しの安心感は忘れられるものではない。
 正直忘れたい思い出だ。
「あのさ……」
 言いたいことは巨万とある。だけど僕に言える事なんてせいぜい一つか二つしかない。
「いつか後悔するからそういう人の迷惑をかける遊びはやめたほうがいい」
 実際僕も後悔したから分かるよ、という言葉をなんとか飲み込んだ。
 後からくるダメージは半端じゃない。言い過ぎかもしれないが、一生心に残る傷ってやつかも。
 予想は付いていたが、少年はまったく先人の偉大な警告に耳を傾けることなく、
 「嘘じゃない、ほんとに来るんだ。早く逃げないと……」
 今にも泣き出しそうな顔に一瞬心が揺れる。
 いくらなんでもかわいそうなことしたかなぁ……
 そんな考えが浮かんできた瞬間、
 「つかまぇーたー」
 妙に間延びした声と同時に、僕の肩に手がかかった。
 
 
 
 それと同時に肩に突然奔る激痛――――
 ……なんてものがあるわけもなく、僕は軽いため息をして、その手を掴み上げて振り返った。
 「ググ……グリム………もう追いついてきやがったか」
 後ろで狼狽する少年。
 僕の肩を掴んでいた主は、中学生くらいの女の子だった。
 ただし、少年と違って変な……よくいえば不思議な格好をしている。
 淵がひらひらとした真っ黒なドレススカートに、やはり同じような記事でできたよく漫画とかで見るマントのような外套
 その頭には赤い石が鏤められた小さな冠。
 ハーロウィンはまだ先だったような……日付までは覚えてないから忘れているだけかもしれないけど。
 
 
 それともまさか―――
 
 「えっと……春ですね」
 恐る恐る口を開いた瞬間問答無用で拳が飛んできた。それを空いている手で受け止める。露骨すぎたか。
 どうも僕はその辺のことが良くわからないんだけど……
 軽い音を立て止まる拳。一撃。
 すごい格好をしていても女の子に過ぎず、少女の華奢な拳は何ら僕に痛痒を与える事なく阻まれる。
 子供の遊びに大人が分け入っていくようで気分はあまり好くないが……
 「貴様、庇うつもりか」
 「いや、そんなこと全然ないんだけどね」
 むしろ庇ってもらいたい。僕は妄想空想の類はもう卒業したんだ。
 突然の蹴りを右足を上げて膝で受け止める。二撃。
 なぜか驚愕に歪む顔、まるで僕が悪いことをしているみたいだ。
 「大いなる闇の炎よ、わが敵を――むぐっ」
 何か奇妙なことを唱えだしたから手を開放して頭を押さえると、口をふさいだ。えっと……三撃かな。
 「君、もう中学生だろ? こんな風に人に迷惑をことして恥ずかしくないのかい?」
 僕は相手にしていて恥ずかしいんだけど。
 本人じゃなくて相手にした人が精神的ダメージを負うってどんだけだよ。
 「よくやった、あとは任せろ!!」
 後ろでさっきまでランドセルを背負い震えていた少年が吼える。
 背後から地を蹴る音。お前ら僕の立場考えろよ。
 一瞬の油断から捕まえていた手の力が緩んだ。
 その瞬間を狙いすましたかのように、グリムと呼ばれた少女の足が動く。
 
 そして――
 
 僕の腹にまるで空を滑ったかのような綺麗なけりがきまった。
 腹に受ける衝撃と視界の回転、目が廻る。ぐるんぐるんと。
 背中に感じる重い衝撃と粉塵の匂いに僕は一瞬何が起こったかわからなかった。
 狼狽する少年の声。人を見下すグリムの声。
「な、無関係な人になんてまねを……」
「邪魔者は消す」
 突然蹴られた僕を無視して会話を続ける二人。
 お前らが一番邪魔だ。
 というか変な遊びに付き合わされた挙句その一環とは言え蹴られていい加減温厚な僕でも腹がたってきた。
 服についた埃を手で軽く払い、立ち上がる。コンクリートの破片がぱらぱらと落ちた。
 どうやら少女の蹴りで突き飛ばされ、軽く塀にぶつかったらしい、さっきの背中の衝撃はそれが原因のようだ。
 身体に不調はない、痛みもほとんどない。制服を見ると、蹴られたと思われる部分が微かにすれて跡が残っていた。
「お前ら、いい加減にしないと親呼ぶよ?」
 所詮子供の力か。彼女が成人男性だったら、僕も無事ではすまなかっただろう。
 それでも、これは遊びとしてはやりすぎだ。今回は怪我がなかったからいいものの――
 遊びでやっていいことといけないことの区別も付かないのか。
「な、なぜ……貴様、なぜ生きてる」
「……蹴りで死んだら笑いものだよ」
 痛くもなかったわ。
 漆黒の少女は視線を少年から僕に移す。
 やっかいなことに僕に標的を定めたらしい。……もう好きにすればいいさ。
 少女の唇が何やら急速に呪文のようなものを唱え始める。
「ば……なにやってる、せっかく生きてたんだから逃げろ!!」
「大いなる闇の炎よ。わが敵を討て。『闇矢』」
 唱えられると同時にグリムの元から何か黒い細長いものが凄まじい速度で飛んできた。
「ロケット花火か……」
「闇の炎だ!!」
「はいはい」
 飛んできたそれを軽く手のひらで叩き落した。四撃
 唖然とする少女と少年。
 すこしだけ手の平が熱かった。見てみると、黒い煤だらけになっている。
 洗いたい。
 下を見ると、燃え尽きたのかロケット花火は残骸一つ見当たらなかった。
「ばかな……地獄から呼び出された炎がたかが人間相手に……」
「上位魔術があんなに簡単……只者じゃないな」
 つかつか歩いていくと、少女の顔が恐怖に歪んだ。
 女の子泣かせるとは罪な男だ……じゃない、僕が犯罪者みたいになってるのはなんでなんだぜ
「あ……ああ……」
「ちょっとこっち来なさい」
 声色を変えて脅すように言うと、二人とも真っ青な顔で首肯した。
 空を見上げると憎たらしいほど晴れ渡った春空がどこまでも広がっている。
 今日はいい天気で明日もいい天気で明後日もその次の日も雨が振る可能性はあるがいい天気には違いない。
 なんでそんな中変な子供の相手をしなけりゃならないんだ。
 軽くぼやきながら僕は二人の手を掴んで引っ張って行った。
 
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