夢箱?かつて見た夢?:第二話


 
2.
 
昔は僕も魔法が使えて超能力が使えて地球を征服できるほどの力を持っていた。
念じればテレパシー、手を叩けば召喚魔術、微笑んだ姿は魅了の呪。
いつからだろう、それが全て夢だと気づいたのは――――
それが真実であることを諦めたのは――――
 
 
 
 
―――――― 夢箱?かつて見た夢? ――――――
 

 
 見慣れた景色を飽きもせず眺めながら、そして当然二人に注意を向けながら僕は家に急いだ。
 普通だったら住所を聞いて親に怒鳴り込むなり警察に連れて行って後を任せるべきだろうが、面倒なのが嫌いなのでとりあえず事情を聞くことにしたのだ。
「は……はなせ。何をするつもりだ!」
 なんか後ろでわめいている中学生の女の子。
 だれか人に聞かれたら誘拐と間違われそうだがラッキーなことに人通りはない。
 というかこの辺は住宅街で、人通りなんてあったとしても近所に住む人、知り合いくらいだろう。
 やたら事故の確率の高い曲がり角を慎重に曲がる。昼間だからか、車の姿もほとんどない。
 角を曲がるとすぐにその先に見える大きな看板『古本屋・概楽』
 その住宅街の真ん中に存在する奇妙な古本店が僕の今住んでいる家でもある。
「そうか、わかったぞ。お前地球防衛隊員だろ。聖騎士並の手腕、おみそれした」
 今まで独り言をぶつぶつしていた少年がやっと納得いったという様子で僕に声をかける。
 死ねばいいのに。
 勝手におみそれしてろ。彼女がグリムとかいう怪物なら僕がその地球防衛隊員とかいう陳腐な、これ以上ない陳腐な、分かりやすい正義の味方でも不思議じゃないといったところだ。
 家に近づくと、前に近所に住むおばさんがたっているのが見えた。
 何か用だろうか。僕の両親は海外へ仕事に行っているので今この家に住んでいるのは僕ともう一人、父が海外から突然送られてきた正体不明(本人の言うところ父の友人の娘らしい)の少女、楓ちゃんだけだ。
 そのためこの隣近所に住むおばさん――武藤さんはよく夕食やその他いろいろめんどうを見てくれている。
「こんにちはー、おばさんどうしたんですか?」
「あら、こんにちはー」
 おばさんは人のよさそうな顔で笑った。その後、視線が後ろに引きずっている二人へ向く。
 ああ、こいつらは気にしないで。ただの頭がちょっとおかしい人だから。
「あら、また変な子に絡まれたの? 」
 人を引きずっている近所の高校生を見ても特に何も感じるところはないらしい。
 心配する必要はなかったみたいだ。それはそれで哀しい。哀しすぎる。僕が一体何をしたというんだ。
 後ろの二人がおばさんの言葉に反応し、猛然とした勢いで反論する。
「な……失礼な。俺は変な子じゃない。第五代白騎士、宮上翼だ」
「人間の分際でこの黒の牙と呼ばれたグリムになんと無礼な!! 貴様の魂食い尽くしてくれる」
 ちょっと黙れ、いや、永遠に黙ってくれ。
 僕はちょっとひきつった笑顔で「……ははは」とおばさんに笑いかけたが、おばさんはこの二人の様子を見てもまったく気分を悪くした様子はなく、
「あらあら……爽ちゃんもまた随分元気な子を拾ってきたのね」
 にこにこしていた。これを大らかと呼んでいいものかちょっと迷う。それとも貫禄と大らかさとはまったく違う、別次元の単位なのだろうか。
「そういえばおばさん、僕に何か用が?」
「ああ、そうそう」
 話を逸らそうと質問すると、おばさんが何かを思い出したように頷く。
 いつもは大抵夜に来るから昼間にくるなんてめずらしい。
 なんか嫌な予感がするなあ……
「水樹ちゃんが何やら『封印を解かなくては』とか言って中に入っちゃった」
「……封印…………アホばっかか」
 封印なんてそんな大層なものがたかが古本屋にあるわけないのに。
「止めたんだけどあの子元気でねぇ……。遊び足りないのかしら」
「多分そうですねー、あとで送るんでおばさん帰ってていいですよー」
 棒読み。
「封印!? な、まさかお前があのついこの間天空から来襲したという噂があった合成獣を……」
「ま、まさか貴様、この私を封印するつもりか!! 」
「抑圧された集団社会生活の中で現れる軽度の精神病かなんかだ、きっと治るさ」
 適当に答えるが、二人はそんな言葉聞いちゃいない。
 僕は両親が営んでいた家を見上げた。
 古本屋『概楽』
 最近人気のある某全国チェーンの古本屋と違って個人経営の至って小さな本屋だ。中には漫画はなく、古書やらその他文庫本などが立ち並んでいる。
 この間ニーズにこたえて漫画も扱おうといったのだが、一蹴に付されてしまった。
 本でごちゃごちゃした中を歩いていくと、カウンターで売り物の本を読んでいる少女がいる。
 いるというからには大抵の場合毎日いる。というか朝昼夜の食事の時以外はずっとここにいるような気がしてならない。
「ただいまー」
「おかえりなさいー」
 声をかけると、本から視線が流れ、僕と視線があった。
 日本人らしい墨を流したような黒髪と、それに合わない透き通ったような碧眼。
 けれど、なぜかその姿は違和感なく映る。彼女がこの家に住む僕以外の人間、お土産と一緒に突然送られてきた少女、本間楓ちゃんだ。
 本人曰く、欧州系の母と日本人の父から生まれたらしいけど詳細は何もかも謎。個人的にはファーストネームとセカンドネームがどちらも日本語である理由を知りたいような気がする。
 戸籍も何もかもよく分からないので、学校にも通えず昼夜ここにいるため、本屋の店番を頼んでいる。
 まあこんな古本屋、日はおろか一ヶ月で一冊も売れないこともざらなのだが。
「今日は二人ですか。……お盛んですね」
「やっぱり春先は多いのかね……」
「いえ、そういう意味では……」
 ため息をつくと、同時に楓もため息をついた。何か呆れているかのような雰囲気だ。
 二人は物珍しげに古本を手に取ったり中を眺めたりしている。
 楓は読んでいた本に栞を挟むと、カウンターから出て本屋の出入り口の鍵をしめ、閉店の札を下げた。
 まだ午後にもなっていないんだけど……何をやってるんでしょう、楓さんは。
「どうせ人なんかこないんで閉店でもいいんです」
 それを決めるのは僕じゃないかなあ……本当のことだから反論できないけど。
「そういえば、さっき水樹さんが『封印を解かなくては』とか言って二階に行きましたよ」
 淡々と言うと、栞を読んだ本を脇に挟んで楓ちゃんはさっさと二階に上がってしまった。
 ちらりと見えた本のタイトルは『優しいな妖怪の殺し方(草薙出版)』
 あまりつっこまないほうがいいんだろうな。何考えているのかわからないし。
 この店は住宅と住宅の間、非常に狭いスペースに立地しているため、一階は古本店関係(店と事務所)で二階がプライベートなスペースになっている。
 僕は二人を連れて、ぎしぎしと怖い音を立てる階段を登り、二階に向かった。
 しかし楓ちゃんがこんな昼間から店を閉めることがあるなんて珍しい……何かあったのかな……
 そんなことを考えながら、自分の部屋の扉を開けると、上から下まで僧衣のような奇妙な服を着た中世的な顔立ちの少年と眼が合った。
「…………よお」
 眼が会ってしまったからにはしかたないので挨拶してみた。
 来ているのは分かっていたから驚かないよ、うん。でもなんで今日はまた出会った時と同じ格好をしているのかな?
「よぉ?」
 水樹は一度こちらを見てなぜか疑問系でそういうと、また部屋の物色に精を出し始めた。
 後ろを振り返るとさすがの二人もその光景にいうべき言葉が何もないようで……
 上には上がいるもんだ。
 もともと僕の部屋には物がほとんどない。学校の教科書と数冊の漫画、携帯のゲーム機くらいだ。何しろ本棚は腐るほどあるし、僕は学生だから衣類は最悪制服一式あればいい。
 貯金通帳や印鑑は僕の部屋ではなく居間にあるし、小説などの類も基本はそこにある本棚にしまってある。ここにあるのはしまうのが面倒になって放り出したものだけ。
 だから物色といっても限度がある。そして水樹はちょうど今物色の限界に達したらしかった。
「この部屋は物がなさすぎる」
 姿に合った中性的な声と恨みがましい視線。
 人の部屋を無断で物色したくせに……盗人猛々しいとはこのことだろうか。
「うるさい、泥棒猫が。さっさと部屋を片付けい」
「ふーいんが見つからない」
「えっと……頭はまだ治ってなかったんだね」
 もうあきらめた。こいつはこういうやつなんだ。
 僕はとりあえず部屋の中の物を全て、この部屋でたった一つの家具、机の引き出しにつっこんだ。
 教科書類はカバンの中に入れて学校に置き去りなので、散らかっていたといっても漫画と携帯ゲーム機、そしてそのソフトと昨日脱ぎ捨てた靴下、その他にこまごました雑貨くらいなもので、部屋はあっという間に元通り。
 なぜかちょっと哀しい。もう少しいろいろ買うべきだろうか。
「随分すっきりした部屋だな。武器の類は専用の武器庫の中か?」
「なんかがらーんとした部屋だな。おっと、封印の術を使おうなどとは思わないことだ。下手な真似してみろ、一瞬で頭を噛み千切ってくれる」
「……死ね」
 混乱が解けたのか、他人の部屋だというのにまったく遠慮ない様子でずかずか入ってくる二人。
 間違いなく水樹やその双子の姉、砂月とお仲間だ、妄想が激しいという点で。
「お前の仲間を連れてきたぞー」
 会わせるつもりはなかったけど。もうこうなったら魔王討伐のPTでもなんでも好きに組めばいいさ。
 水樹の視線が初めて二人に向いた。今まで気づいてすらいなかったのだろう、水樹と砂月は自分の興味外のものは視界に入っても意識に入らないというこの上なく唯我独尊的な、ある意味羨ましい性格の持ち主なのだ。
 僕は十畳ほどの狭い部屋の中、壁に背をつけて座った。
 
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

槻影

Author:槻影
Web小説家の雑文ブログ。小説やら日記やらを投稿していきます。
書籍化作品あり。
堕落の王Ⅰ、Ⅱ(ファミ通文庫)
誰にでもできる影から助ける魔王討伐①②(エンターブレイン)
ツイッター:
https://twitter.com/ktsuki_novel
小説家になろう:
http://mypage.syosetu.com/27455/
ストリエ:
https://storie.jp/creator/25091
カクヨム:
https://kakuyomu.jp/users/tsukikage
連絡先(何かあれば。☆を@に変えてください):
ktsuki.contact☆gmail.com

訪問人数

Amazon

作者のご飯になりますので、余裕がありましたら是非





twitter

ブログ内検索