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黒紫色の理想:第三十八話

 
 どうしてこの世界は思い通りにならないのか。
 俺ほどの優秀な頭脳、優秀な肉体、そして強運を持ってしてさえ今まで事物が納得のいくものになったことはない。
 憑依を解いた瞬間ぶっ倒れた繊細な死神は今はベッドの中。血を洗い流すのに大分時間を食ったが、それなりの緩衝時間を経てさえ気分がよくなる兆しはなく、今も何事か悪夢にうなされている。
 先ほど夢を覗いてみたが、何たいしたことはない一般的な悪夢だった。何か血の海の真ん中で複数の半端に崩れている人間に組み付かれる夢。ただの夢。
 
 とりあえず命に別状はない。
 だがしかし足を引っ張ってる事には変わりない。
 
 元々二名しか供を連れてきてないのに、その数少ない供の一人が、人殺しただけで倒れるとかどんだけさ。
 生まれた時からLVが高いとそれに相応しい精神が伴っていないという事を理解させられた一件だった。仕方ない、シルクにKillingFieldの分まで働いてもらう事にしよう
 
 
「シーン様、これからどういたしましょう?」
 
 さきほどまでKillingFieldの看病を行っていたシルクが戻ってきて俺に尋ねる。
 
「どうする、とは?」
 
「いえ……その……一人倒れてしまいましたが……」
 
 なるほど……その事か。
 
「このまま会議に出席する。KillingFieldのあれはおそらく一時的な物だから会議が始まるまでによくなってるだろう」
 
 トラウマか何かにはなっているかもしれないが、そこらへんは俺の関知するところではない。
 大体死神なんて大層な称号を持っているくせに人の死にショックを受けるなんて誰が想像できようか。
 未来の俺もそこらへんの所をちゃんと教えてくれればよかったのに。
 
 幸いな事に、会議は明日からだ。
 いくら悪夢を見るほど精神的にダメージを受けてるとしても、身体は全然健康状態なんだから何とかなるだろう。
 
 
 
 それにしても……近いうちにちゃんと人の死に慣れさせておかないとな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
第三十八話【聖域と俺とは無関係な事件の話】
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 日が明け、会議当日。
 朝っぱらからご丁寧にホテルまで尋ねてきた案内役兼護衛の兵に連れられた先にあったものは、とほうもなく天を衝くほど巨大で、荘厳な神殿だった。
 見た目的には、嘗て俺が住んでいた魔王城とより二周りほど小さいが、腐っても城だったあそこと比べるのは間違いだろう。
 少なくとも、染み一つない白一色で染められたこの廊下は、薄暗く、かついつも黴と穢れた魔族の臭いで満ちていたあの城よりも遥かに心象がいい。
 聞いた話では、水神を祭っている聖域らしい。その神性は、街全体が聖域ともいえるこのクラウンシュタインの中でも随一を誇り、重要な会議が行われる際などは開放される事もあるとかなんとか、俺は詳しくは知らないがシルクがそんな感じの事を言っていた。
 確かに感じるところ、聖域としては一流といえるだろう。
 ぴりぴりとした心地よい緊張感が俺の肌を打つ。
 俺ほどになると一流の聖域でもほとんどダメージを負う事はないが――って
 
 
「何で人間の俺にダメージがあるんだよ! 前提が間違ってるわ」
 
「!?」
 
 無言かつ早足で俺達を先導していた兵士が突然声を上げた俺を振り返る。
 
「どうかしましたか?」
 
「……おかしいな。身体がぴりぴりする」
 
「……ぴりぴり……?」
 
 おずおずと気味悪そうに顔色を伺ってくる案内役。そりゃ俺だって聖域でダメージを受けるような奴の側にはいたくないわ。それが自分より地位の高いものだったらなおさらだ。薄気味悪すぎる。
 てか、この世界俺に厳しくないか? いくら闇の属性を持ってるからって聖域に影響を受けるとか聞いた事ないんですけど……
 
「気のせい……うん。気のせいだ」
 
 ダメージと言っても、一歩歩くと1ダメージとかそういうクラスのダメージではない。強いて言うならぴりぴりというよりはざわざわと言う感覚に近いか。魂がうずいているとでも言えばいいのだろうか。
 もしかしたら全く場所には関係なくサブリミナル的にそんな気分になっているだけかもしれないが……
 
「ひぃっ……」
 
 
「ん? どうかしたか?」
 
 突然何か恐ろしい者でも見たかのように慌てて前を向きなおす兵士。
 そして早足で歩き始めるそれ。
 どうしたんだろう……
 
「シ、シーン様……」
 
「ん? どうかしたか? もしかしてシルクも身体がざわつくとか?」
 
「いえ……シーン様……瞳孔が開ききってます……」
 
「……え?」
 
 瞳孔……
 眼の前で手を振るが、それで自分の瞳孔を確認できるまでもなく――
 ようやく今の気分が何に似ているのか理解する。
 あれだ。戦場での高揚に似ているんだ。そりゃ瞳孔も開くわ。
 他者がどうなのかはわからないが、俺の場合戦場では気分はいつも頂点である。
 そりゃいきなり案内している者の瞳孔が開いたら驚くよ。それが俺みたいに地位も富も力も持ち合わせた天性の超人だったらなおさらだ。他国の要人とは言え、案内役程度の役割しか持ってない兵士にとって、俺は神のように見えても何ら不思議ではない。
 気を落ち着かせよう。深呼吸して……ふぅ。
 
「……シーン様、あまり他者を刺激しちゃだめですよ。まだ案内されてる最中だからまだいいものの、会議中にそれやったら外交問題に発展しますよ?」
 
「ちょっと待て。俺が何をやった」
 
 シルクが大きくため息をする。そして、なんだか可哀想な物でも見る目でこちらを――
 
「一瞬で表情が無表情になりました。シーン様の顔を見慣れてる私でも言いようの知れぬ衝撃が――」
 
 どうしろって言うんだよ。
 
 辟易しながら案内についていく。
 まもなく、先を歩いていた案内役は、一つの巨大な扉の前で止まった。
 細かな意匠を凝らされた頑丈そう白亜の扉。気配を感じるに、魔術で結界も張られているようだ。力ずくであれを突破するのはかなり難しいだろう。
 しかし、最も注目を集めたのはそこではない。
 
「多いですね。何かあったんでしょうか?」
 
 扉の前では、明らかに帯剣した黒鎧の騎士が大勢待機していた。
 まるで前を通る者を威嚇するかのように――扉の前に立ちふさがっている。
 何人かって? 少なくとも十人や二十人じゃない。あまりの様子に、まだ多少体調が優れず、今まで一言も話さないで後ろから静かについてきていたKillingFieldも顔を驚きに染めるほどだ。。
 いくら会議に出席するのが、何かあったら確実に外交問題に発展するであろう各国の要人とはいえ、過敏になりすぎじゃないだろうか?
 
「ルートクレイシア公国、シーン・ルートクレイシア様、シルク・アーウィンテル・アイジェンス様、キリングフィールド様の到着です」
 
 KillingFieldの件で顔を一瞬険しくする騎士団(もはや団のLVである)
 気持ちはわからんでもない。物騒な名前だもんな。まぁ、その物騒な名の持ち主がいたいたけな少女だと知ってさしもの強面騎士団も顔を綻ばせ――
 
 ……ない?
 
 むしろ気配が物々しい方向に変化している気がする。
 眉をひそめてひそひそと何やら会話している案内役の兵と、扉前で待機していた騎士達のうち、どこか凝った意匠の鎧を着たリーダーっぽい男。あまり友好的じゃない雰囲気だった。
 
「おい、何かあったのか?」
 
 そこら辺に転がってる騎士の一人を捕まえ、尋ねる。
 その男は、何か機密に触れるのかしばらく困ったように口をつぐんでいたが、じーっと目を合わせてやったら、わかってくれたのかしかたなしといった表情で事情を教えてくれた。
 どうやら、つい昨日都市内で一戸の建物が消滅する事件が起きたらしい。
 水上にあるため、悪魔が滅多によってこないクラウンシュタインにおいてはただでさえ大きな事件なのに、その上いくら調査してもどうやってそのような破壊を起こしたのかその手段がわからないからよけいに性質が悪い。おまけに、今のクラウンシュタインには各国の重鎮達が軒並み揃ってるときている。クラウンシュタインの警戒を負かされている騎士団の心労も窺い知れよう。
 
「そうか……それで扉の前にこんなに――」
 
「はい。今回の事件が東半大陸人民統合国連会議に関係あるとしたら、一番狙われる確立が高いのはここですからね」
 
「んー……それで、事件の犯人は見つかったのか?」
 
「見つかってたらこんなに警戒してませんよ……目撃証言はあるんですけどね」
 
 その時、その騎士が一瞬視線をKillingFieldに向けたのを俺は見逃さなかった。
 名前か! 名前が悪いのか! あの人殺しが大嫌いでほんの十数人殺しただけで丸一日寝込んだKillingFieldがそんな事できるわけが――
 まさか猫を被っていたのか?
 
「不味いですね……」
 
 苦虫を噛み潰したような表情で唸るシルク。どうやら、シルクもこいつ等と同じくKillingFieldがやった線が濃厚だと考えているらしい。
 俺にはそれでも、話を聞いただけで目に見えておろおろしだしたKillingFieldがそんな大それた事ができるとはとても考えられないのだが(俺は自分の部下をそれなりに信頼するほうだ)、一応フォローでも入れておくべきか……
 
「……んー。俺だったらここに警備が集まってる今を狙うな」
 
「……は?」
 
 何を言ってるんだこの人は、みたいな顔をする男。
 俺は周囲に聞こえる程度の声で続ける。
 
「だってさ、そうだろ? ここにこんなに騎士が居るという事は、他の都市内の警備がそれだけ減ってるって事だ。俺なら確実に今を狙う。案内役兼護衛なんて一人だしね。奇襲を掛ければあっという間にお陀仏だ。我がルートクレイシアはダールン公然り、トップにLVの高い者達が集まっているからもし仮に襲われても返り討ちにできる――少なくとも、守られる邪魔にはならないだろうけど、他国の要人達の場合はそうもいかないんじゃないかな。たった一人の護衛で三人守り切って襲撃者を撃退できるかな?」
 
「…………」
 
「ちょ……引いてますよ。ご自重ください」
 
「あー、死んだ。今三人死んだね。何だっけ。確か供は二人まで。護衛を都に入れる事は許可しないとか言われたような気がするけど……この場合は誰の責任になるんだろうか……」
 
「何を言いたいんですか? ルートクレイシア公」
 
 リーダーらしき男が顔を微かに引きつらせて問いかけてくる。
 まったく、これだから空気を読まない奴は嫌いだ。それが男だったら尚更死ねばいいのにな気分になってくる。
 大体事件が起こったんだかなんだか知らんが今回は俺達は全く関係ないんだし。
 ぐだぐだ言ってもどうせこいつらじゃ理解できまい。とりあえず一番重要な所だけ言うか
 
 
 
 
 
 
 
「不快だからとっとと俺の眼の前から消えろ、屑め」
 
 ぴしりと空気が凍った音がした。
 
 
 
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9:更新きたー
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