今月も更新率が月2になりそうなので適当に書き綴ってみた。(2)

1.
 無骨で耐久性のみを重視した鋼鉄の持つ特有の臭い。
 異常なほど真っ直ぐ作られた廊下は広大な敷地を緩やかな、見る限りでは分からないほど緩やかなカーブを描いて築かれており、真っ直ぐ進んでいくといつの間にか同じ場所に戻ってきてしまうことを俺は知っている。
 俺は、そのうんざりするほど長い道のりを辟易としながら歩いていた。

 灰の塔と呼ばれるこの砦は、元々山に囲まれた僅か数百平方メートル程度の僅かな平地に建てられたもので、細長い円筒形をしている精神病棟(名目上は)である。本来なら外見からしてそれほどの広さを有しているはずがないのだが、数十年前にこの地に閉じ込められた能力者(外では星持ちなどとも呼ばれているが)の中に空間をある程度自由に収縮・拡張する能力者がいて、今の形態と相成った。建物全体は基本的に耐久性を重視して、鋼鉄を材料として作られているので、外から見ると本当に無骨な黒の塔のように見える。

 基本的にここに住む能力者達はほとんど全ての事に興味がないので、今現在この地に住む百九十六人の能力者達はこの塔の中を好き勝手区切って暮らしている。地下の区画より地上、地上より空に近い区画の方が人気がある傾向があるが、それすら"何となくこっちがいい"程度の感情であり、少しでも障害があると皆諦めるのが常であった。故に千差万別、老若男女が百九十六人も塔に閉じ込められているにも関わらず縄張り争いなどは存在しない。

 部屋の数は今の所二千と五百三十二部屋存在しており、百九十六人で割っても一人十部屋以上自由に使える計算だ。また、ハイスキルには空間操作系の能力者が多いので頼めば新しい部屋を作ってもらうことも出来る。大抵の能力者は無気力且つ暇を持て余しているので無料で作業を請け負ってくれる。というか通貨などという俗物はこの閉じられた世界では存在していないのだ。

 食料・生活用品などは、この砦を表向き上管理している機関から一定周期で届けられるが、そうでなくてもありとあらゆる能力者が揃ってるこの地でどうにも為せない事はほとんどない。そのため、ここに入れられたもの達は思う向くまま気の向くまま暮らしていた。

 一人の人間はただ過ごしている分には十もの部屋は使わない。むしろ、特定の自分の部屋というものを持っていない者も少なくはなかったが、俺は自分の縄張りというものをはっきりと決めておかないと精神的に不安であるという厄介な性癖を持っていたため、自分の住む巣穴に向かっている最中だった。
 俺に限らず、攻撃適正があまりないスキルを保有している"化け物"達には自分の領域を確保するタイプが多い。肉体的にもそれほど強くないタイプが多いからな。そこら辺で寝てたら能力に巻き込まれて死ぬ可能性もあるし。

 欠伸を殺しながら、通路を進む。本来なら反響するはずの足音も、何かの能力により抑制されているらしく辺りは非常に静かだ。

 窓などは存在しないが、建物の中は一様にして明るい。一定区間内に明りを発生させる"光の君"と呼ばれるスキルを持っている者が、そのスキルをフルで稼動させているためだ。全力でやれば建物全体を蒸発させるほどの出力を出せる第一級の攻撃スキルだが、そんな心配は誰もしていない。その行為がどれだけ無意味で、そしてそのスキルを持っている者も同じ考えを持っていると知っているからだ。特殊無気力症候群疾患者の気持ちを一番よく知っているのは同類なのである。また、彼が寿命で死んだり気まぐれで外に出て行ったりしたら建物内は暗闇に包まれるわけだがその心配をしている者もいなかった。どうせ誰か適当に適した能力を持っている者が光を灯すに決まってる。いくら無気力だといっても、ずっと真っ暗なのは誰だって嫌だ。

 通路を進んでいくと、あちこちに分岐点やら穴やら階段やら隠し通路などあるが、俺はそれらを全て無視して自分が今巣穴と決めている場所に直行する。右に左に、歩いているだけで非常に疲れるのは灰の塔の仕様である。
 皆好き勝手生きているが故に、塔内部は一種のラビリンスを構成している。なんたって空間操作スキル保有者は自分の都合のいいように通路を作ったり消したりするし、道に迷った攻撃系スキル保有者は壁を破壊して突き進むし、ひどい有様なのだ。そりゃ歩いているだけで視覚的な疲労が溜まる道も出来るって。
 また、案内板があるわけではないが、幸いな事に俺のスキルは情報に特化したスキルであるため、この地では道に迷ったことがなかった。今も間違いなく自分の部屋に向かって最短距離を進んでいると自覚できる。

 と、もうちょっとで自分の部屋にたどり着くといったところで、俺は立ち止まった。
 ほぼ同時に眼の前の地面が盛り上がり、大柄の男が顔を出す。



 ……もぐらではなく人間だ。先ほど説明した"道に迷って壁を突き進んでいく能力者"である。日常茶飯事なので驚いても仕方ない。ここらでは鉄をプリンのように掘り進める者が圧倒的大多数を占めているのだから。


「おい、危ないぞ」

「お、すまねえ。前見てなかった」

 見えないだろ。などと言うツッコミは無意味だ。
 最低限のコミュニケーションしか取らなくていいというのがこの地の利点でもある。

 鋼鉄の床をぶち破って現れたその男は、両腕をついて穴から這い上がると、盛り上がり拡散している鉄の破片をぺたぺたと粘土細工でも扱うかのように穴に押し付け始める。先ほど百九十センチを超えた大柄の男が通ってきたそれなりに大きな穴はただの数十秒で魔法のように消えてしまった。微かに残ったでこぼこもすぐその手の平で馴らされ周囲の床と見分けがつかなくなってしまう。

 どうやら破壊ではなく物質の性質を何かしら変化させる能力だったらしい。
 俺はその様子を腕を組んで見ていた。さて、教えるべきか……
 
「邪魔したな」

 迷っているうちに、名前も知らない男は、一度パンパンと着ていた深緑色の作業服を払うと、その場でぴょんと飛び上がった。天井にゆるやかにめり込んでいく様子を見るのはひたすらにシュールだ。
 脚を残して全てが天井にめり込んだ時点で、やっと決意すると、俺はその男の脚に向かって話しかけた。

「道が違うぞ。上じゃない」

「……そうか」

 ただ一言そう言うと、すぽんと下に降り立つ男。めり込んでいた天井が緩やかに元の形に戻っていく。破壊して突き進む奴等より環境に優しい能力と言えよう(住宅環境ね)
 それを確認した後、親指を自分の背後に向けて指して言ってやった。

「あっちだ。真っ直ぐ言って三つ目の分岐点で右。正面にある扉を開けた部屋にある飾り棚を動かすと後ろに穴があるからそこを通っていけば一直線でつく。その部屋を巣穴にしている者は現在いないから問題ないはずだ」

 男は何故、などという疑問は抱かない。ここで俺が嘘をついているなどとは考えない。そのような行動無意味だからだ。それ故に、彼は俺を無条件で信頼する。


 もしかしたら、灰色の塔は共生の精神が現在最も育まれている場所かもしれない。
 いや、結果的に共生になっているだけかもしれないけど。


 男は一言礼を言うと、俺の指した方向に向かって歩いて行った。

 塔は広いが、また会う事もあるだろう。その時あいつは俺と会った事を忘れているだろうが……

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