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今月も更新率が月2になりそうなので適当に書き綴ってみた。(3)

2.
「困った……ここ……どこだろ」

 黒鉄の城の中、少女がたった一人ぽつりと溢した。

 周囲を見渡しても人の姿は愚か物音一つなく、微かに傷や汚れは違っても目の前に広がる通路は今まで通ってきた所と何の変わりもないように見える。

 少女は今、完全に孤立無援な状態になっていた。

 今の自分の現在地が全く分からない。分かるところまで戻るという手を使えばいいのかもしれないが、残念ながら戻る道もわからない。
 まるで蟻の巣のように枝分かれした道は少女の方向感覚を狂わせて止まない。

 ここに閉じ込められてからよく思うんだが、他の人たちはどうやって道を覚えているんだろう。

 現実逃避じみた思考が少女の脳裏を巡る。

 地図を作っているとは思えない。ここはよく伝説で聞く"蠢く迷宮"並に道が変化するし、それを克服し、且つ地図を作る道具を持っていたとしても地図を作ろうとやる気を出す人がいるかどうか……


「はぁ……どうしよ……」

 目尻を微かに下げ、少女は肩にかけていた赤黒い染みが出来ている自分の体長と同等かそれよりも僅かに大きな麻袋を床に置いた。
 何か湿った物がつぶれるような音。相当な重量があるのだが、少女の仕草に疲れは一切見えない。
 ただ困惑したような表情がその"血肉の詰まった袋"と対比して酷くアンバランスに見える。

 この塔の中では、ある一定の場所を棲家としない限り当然道を覚える必要がないのだが、一定の棲家を持っている者も道を覚えているとは限らない。
 ソースは私。でも、情けない話だけど、きっとおそらく同じような人はそれなりの数いるはずだ。
 自分が方向音痴だとは思わない。いや、方向音痴の人なんてこの塔内部にはいないだろう。
 目的地に完全に迷わずに行き着けるのは探査系の能力を持っている人だけなのではないのだろうか? 一瞬そんな言葉が頭を過ぎってしまうほど、塔の内部が複雑なだけなのだ。

 自分を納得させるためのいい訳をつらつらと連ねてみる。
 もちろん、そんな事をしていても目的地の場所が浮かんでくるわけではない。一応部屋までの道順は覚えていたはずだが、現在地も分からないのにそんな記憶に何の意味があるだろうか。
 現実は非情だった。

 そんな事を考えている間にも足元の麻袋が血と臓物の臭いを辺りに撒き散らしている。数分もすれば常人ならあまりお近づきになりたくない通路の出来上がりだ。

 しかしそれ以上に問題がある。

 早く帰らないと肉が腐ってしまう。果物や野菜なら塔の内部でもそれなりに手に入るが、肉は外か地下深く、或いは塔の頂上まで行かなければ手に入らないため、なるべくなら腐らせる愚を犯したくなかった。

 腐らせるくらいなら……その辺であぶって食べてみせる! たとえ肉が何十キロあったとしても――

 自分の中で考えを決着させると、少女はその麻袋を軽々と担いだ。立ち止まっていても目的地には着かない。目的地にたどり着くためには――走らなくては。

 そして、袋から染みた血が、羽織っているクリーム色のコートに移るがその事に気を使う様子もなく、

 少女はただ一人疾走した。

 麻袋と対比して少女の身体はあまりに小柄だ。おまけにその袋の中身は少女本人より重量がある。

 それでも、その少女の走り――その速度は化け物じみていた。
 BGMは袋から滴り落ちる血の雫の音
 時には壁や天井すらを足場とし、

 一滴の雫が床につく頃にはその姿は遥か遠くにある。

 スキル"戦神(いくさがみ)"

 それが少女、鏡原藍(かがみはら あい)の持つハイスキルである。
 その主な内容は、身体能力の大幅補正。副次的な効果として、辺りの法則を所持者に有利になるよう歪めることができる。
 王道こそ正道にしてシンプルであるが故にハイスキルの中で最も汎用性の高いスキルの一つだ。
 その力は、僅か十数歳の少女にして上級魔族たる竜と対当に戦う戦力を与える。
 音一つ立てず天井に穿たれた藍の足跡がその力を物語っていた。


 ただ、その戦人なら誰もが欲するであろう力を持ってしても、今の藍の状況を救うのには役に立たない。
 十数分ほど走り、無数の足跡を残したところで自分の行動の無意味さを感じ、ようやく藍は立ち止まった。
 走っている間は気づかなかったが、血がじっとりとコートに染みて気持ち悪かった。

 あまり自分の見た目にこだわらない藍でも、今の自分の姿を想像すると苦痛になってくる。
 おそらくコートだけではなく下のシャツにも血はべっとりと染みているだろう。血抜きは得意ではなかったので、後でゆっくりやろうと血抜きもせずに獲物を背負ったのが明らかな敗因だった。


 はぁ……どうしよう。せめて誰かいれば、ここがどこか聞けるのに……

 一体此処は何階なんだろうか。地下? 地上? 塔の頂上に近い地点? 今回は地下で肉を狩って来たので頂上付近の可能性は低いと思うけど、絶対ないとは言い切れない。
 各所に存在する階段は、そのほとんどが能力者によって適当に作られたものなのでどこの地点に到着するか分からないし(空間が捻じ曲げられているので一つ上っただけで一気に地下から頂上に着いたりする)、元々塔を建てたときに作られたメインの階段を使えばちゃんと一階ずつ着々と上がっていけるがそもそもその階段がどこにあるか分からない。
 
「……ん」

 困りきって立ち止まった所で、藍の視線が数百メートル先にある真っ赤な扉を捕らえた。
 黒の床や壁の中、血液とはまた違った鮮やかな赤で染まった扉は酷く目立つ。
 各自帰る部屋を持っている人間は、その扉に目立つように何らか装飾を施す事が多い。
 標識だったり、何らかのアクセサリーがつけてあったり。
 ただし、真っ赤に塗ってある扉はこの塔の中には立った一部屋しか存在しない。

 周囲を見渡す。見覚えのある道ではないが、そんな事はまったく関係がなかった。
 一週間あれば塔の中の七割の道は変化する。気にしてなんていられない。

「助かった」


 袋を背から降ろし、血が付着するのも構わずそれを両手で抱える。
 先ほどまで気持ち悪く感じていた生臭い臭いも、今の藍には何の痛切も与えない。
 扉の前まで出来るだけ早足で進む。
 扉に掛かった小さな木の標識の文字を認め、ようやく藍は自分の幸運に感謝した。


『御崎 黎の部屋』


 そのドアに見覚えがあったからだ。
 いや、この部屋はこの迷宮の中で最も知る人が多い部屋のうちの一つだろう。

 この複雑な迷宮じみた灰の塔の中に唯一存在する道標。

 他者の目的地を透視する事ができるスキルの持ち主が巣穴とする『赤の扉の部屋』


 人はその部屋をその住人に断りもなく勝手にこう呼んでいる。

 "灰の塔の迷子センター"


 ちなみに、藍は結構この部屋の常連だった。
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