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クリスタルマギカ第二話

 
 
 世界は酷く複雑だ。
 俺は常にありとあらゆる有象無象と繋がる事のできる異能を持っていた。だからこそわかる。
 この世界は一筋縄ではいかない。
 事実は小説よりも奇なり。
 あるいはこの世に存在する全ての空想妄想は実在しうる事象である。
 
 つまる所何を言いたいかと言うと……
 
 眼が覚めたら、見た事もない部屋のベッドの中でした。
 
 
 
 
 ……何を言っているのか分からない。
 
 
 俺は確かに死んだはずだ。
 準備万端で最終決戦に挑んだ結果、仕掛けられていた何らかの罠によって腕はひしゃげ足はつぶれ、世にも哀れな踏み込んだ瞬間死んでしまった脇役に成り下がった。
 溜飲を飲む思いというのはこういう事を言うのだろう。
 
 よく、小説などではこういう状況の際、主人公はもしかしたらここは天国ではないか、などと一度は思う。
 だが、俺にはとてもそうとは思えなかった。
 世界に対する認識の違いというものか。
 ありとあらゆるものを見すぎた俺は、他人よりも現実と夢の区別がはっきりつくのだ。
 心臓に仕込まれたクリスタルマギカがさっきからがんがんと訴え続けている。これは現実だと。
 主人公にあるまじき賢しさ。
 所詮俺は脇役だよ。
 
 自らの身体を見下ろすと、そこには包帯をぐるぐる巻かれた貧相な肉体があった。
 見るからに素人っぽい包帯の巻き方。どうやらここは少なくとも病院じゃないようだ。また、医者に掛かったわけでもないのだろう。あの怪我は、たとえ日本の医術が優れたものであったとしても――治療できるような生易しいものではなかったのだから。
 俺の接続の異能を使って尚歩くのがやっとという事態。"繋げる"概念を使ってさえ、その程度の事しかできない状況だ。
 あの状況から助かったという事は――
 
 
 
「異能か。物質操作系のクリスタルマギカ? 概念操作は……ありえないな。もし概念なら万能すぎる。俺の耳に入ってこないわけがない」
 
 それは即ち異能の力に他ならない。
 身体中をばらばらにさせられかけた人間を修復できる可能性があるとしたらそれだけだ。
 身体の痛みが消えたわけではない。だが、それなりに緩和されたことは疑うべくもなかった。
 痛くない。いや、痛いが激痛ではなく我慢できる程度の痛みだ。異能万歳である。
 
 
 寝かせられていた部屋は、人の生活観と言うものがほとんど見られない空虚な部屋だった。
 クリーム色の壁紙にベッドが一つ。本棚があるが中身はなく、窓がないため朝か夜かさえ分からない。
 掃除だけはされているようで埃っぽくはないが、どうもテストハウスのような、感覚を受けた。
 
 
 俺の研究室には、治療に使えるようなクリスタルマギカ持ちは存在しなかった。
 いや、あれほどの傷を癒せるクリスタルマギカ持ちなど、政府直属の七つの研究室の中でも数人しか居ないだろう。
 特に治癒能力は、使い道が非常に多い。需要過多という奴だ。研究の課題としても実用性についても右に出るものはいるまい。
 国が見つけたクリスタルマギカ保持者は、大抵七つの研究室にスカウトされるのだが、第三研究室長の遥教授もよく言っていたものだ。治癒関係の能力者が手に入らないものか、と。
 
 閃と龍が俺を運んだのかもしれないな。
 そして、死体だと思っていた俺が生きている事に気づき他の治療系の力を持つ人材のいる研究室に治療を頼んだ、と。
 うむ、ちょっと強引な気がしないでもないが、可能性的には一番ありえそうだ。
 一から七まである研究室の仲はそれほど悪くない。日本にクリスタルマギカの公的研究施設は七つしかないだけあって、情報交換も頻繁に行っていたし、俺は第三研究室の助教授の立場にあったので他の研究室に出向いた事もけっこうある。
 これほどの治癒能力を持つ人材となると、第一研究室の見城さんか第五研究室の命……あるいは第二の沼波あたりが何とかできそうか。
 となると、ここは第一か第二か第五研究室のどこか?
 
 そこまで考え、俺は起こしかけた半身を再び柔らかなベッドに沈めた。まだ身体がだるい。
 
 とりあえず人が来るまで待とう。一応お礼も言わなきゃならないし、それが終わったら身の振り方を決めなくては。
 第三研究室はおそらく壊滅したのだろう。初めの罠であれほどの威力だ。裏から陽動に入った教授や美東が生き残っている可能性は低い。そもそも、生き残ってたら治療が終わった後第三に戻されるだろうし。
 これからどうしようか……
 
 暗鬱とした思いで未来を幻視する。
 こんな酷い目にあってなお、俺の心はクリスタルマギカの研究にあった。
 貯金はそこそこあったが、普通の生活に戻るなんて事は今更考えられない。
 クリスタルマギカの研究はまさに俺にとってライフワークといえる存在だったのだ。
 もう少しで完成していた研究も……惜しい事をしたとしか言いようがない。時間さえあれば完成していたのに。
 九割がたはもう出来上がっていた。あと一週間あれば、おそらく完成していた。研究者として過程の方が重要だったが、それでも結果を見れなかったのが悔しくてならない。
 自費で研究を続けようにも、機材を購入するだけで相当な額がかかる。貯蓄を全て吐き出せばできるかもしれないが、クリスタルマギカ関連の技術は門外不出。お金にならないのだ。
 さすがの俺でも霞を食べて生きていくわけにはいかない。
 他の研究室の教授に土下座してバイトとしてでもいいから雇ってもらうか……
 
 そんな事を考えていると、ふいに部屋に一つしかない扉が開いた。
 
 命の恩人の来訪に、寝たままでは失礼かと思い身を起こそうとして――
 
 
 
 
「……起きたの? 大丈夫……ですか?」
 
 
 
 俺の思考は固まった。
 扉を開けて入ってきたのは一人の中高生くらいの見た事のない女の子。
 研究室の人員は大体会った事がある。これで他の研究室に助けられたという可能性は低くなった。
 だが、思考が固まったのは――目に付いたのはそんなところではない。
 
 
「……何か?」
 
 
 無感情を装っているかのような無骨な声色に、かすかに心配げな表情が混じる。
 鮮やかな銀髪に黒の瞳。
 クリスタルマギカの保有者は、外見に何らかの影響が起こっているものが多い。それは、身体の一部に宿った異能の結晶が肉体を侵食しているからだ。強力なクリスタルマギカ保有者ほど外見あるいは内面が人間離れしているもの、それは研究者の中では常識だった。
 だが……
 
 
 俺はやっと現状が理解できた。
 どうやら俺は勘違いしていたらしい。
 "助かった"ではなく"捕まった"だったようだ。
 俺は後衛だったから直接会った事はなかったが、それでも閃と龍から聞き及んでいる。
 貴晶結社にいるらしい一人のクリスタルマギカ保有者――銀髪に黒目の少女の事を。
 
 
「まいったな……」
 
「?」
 
 
 首をかしげる黒のタートルネックを着た少女。
 その容姿は、黒と白の二色の色彩で表現できる。黒の服。銀の髪に白の肌。唯一唇だけが紅く、そこだけが際立って見える。
 
 黒の服を好んで着る凄腕のクリスタルマギカ使い。
 それは間違いなく話に聞いていた姿そのままだった。
 
 何度も戦っているにも関わらずその能力は未だ不明
 戦いを重ねる後とに自然と目立つその姿は、他の研究室も併せて前衛の間で伝説といわれるまでに知られている。
 
 
 
 ついた二つ名が『モノトーン・グレースケール』
 
 
 確かに一研究者としては会ってみたいとは思った。
 しかしまさかこんな所で、こんな状況で会う事になるとは……
 


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