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第四十四話:黒紫色の理想

 耳が痛いほどの静寂が訪れる。
 軒並み高レベルの人間が集まっているとはいえ、この状況を瞬時に理解できる人間はいない。恐らく今一番この状況を俺。となればアドバンテージを無駄にしないように行動すべきだ。全ての視線がこちらに向かっている今だからこそ出来る事もある。
 俺は、まだ皆の頭が状況を判断しかねているうちに、側に直立していたクリアと何を考えているかわからないKillingFieldの手をそっと掴んだ。
 タイミングを見計らえ。感覚を研ぎ澄ませろ。
 炎の結界により一歩後ろに下がった気配。反射的に唱えた遠見の術により、炎の向こうにあるその姿を俺は完璧に捉えていた。
 オーラは微塵も損ねず。気配は剣呑にして健在。
 悪夢から抜けだしてきたような漆黒の体躯。姿形は人間に近いが真っ赤に光る瞳が胡乱にさ迷い、目的もない殺気は果たして生き物のものか否か。
 一瞬その赤き眼がこちらの視線とあった。もちろん気がしただけだが。

「ついてこいシルク」

「はい」

 突然の命令にもシルクは戸惑わない。はっきり残された感情と不安定だからこそ美しい信頼は人間味のなかったクリアには手に入らなかったものだ。

 俺は僅かに唇を歪めて笑う。

 そして、そのバグが一歩前に踏み出すと同時に、俺は思い切り地面を蹴った。
 同時に起こった奇妙な音。
 緩やかに流れる視界は扉の側にいた人間が紙切れのように吹き飛ぶ姿を捉えていた。その中には護衛も混じっている。まともに相対していればそう簡単にやられなかったはずの戦士は、こちらに注目していたが故にあっさりと隙を突かれ、大きな代償を払うことになった。連日切磋琢磨し自らを磨き上げた鋼の戦士はそう簡単に死にはしないが、護衛対象たる人間はそんなに頑丈ではない。真っ赤な飛沫が神殿内の湿った空気を染める。肉片一つ残さず人が死ぬ。ただの打撃なのに結果は爆散に近い。まあLVもそんなに上げていない生身の人間ならそんなものか。
 しかしスマートじゃないな。やはりあれはまともにやりあってはならない獣の類だ。
 
「て、敵襲だッ!!」

 そこで初めて誰かが大声を上げた。半分が状況を理解し戦闘態勢に入り、もう半分は自らの主人の前に立つ。一部が守られるままに立ち尽くす。俺は、二人の手を取り一人を伴ってそのへんに立ち尽くすやたら豪奢な衣装を着たおっさんの後ろにさっさと身を隠した。

「く、ななな何だ君は」

「うっさい」

 話してる暇が無駄だ。
 動揺を敵意で宥め、静かに息をひそめる。
 アレの狙いが俺だとしても、アレが俺だけを狙うとは限らない。何たってこの部屋には大量に生き物が、そして戦士がいるのだ。せいぜい足掻いてもらおうか。

「貴様、何者だ!」

 獣の一番近くにいたどっかの国の護衛らしき男が律儀にも詰問する。馬鹿なやつだ。
 俺ならあれを見て人語を解するとは思わないが……いや、解してもわざわざその問いに答えるとは……ましてや仮に応えたとしてその答えを信用出来るとは思えないが……。先手必勝の文字を知らないのかあふぉが。

 一瞬動きを止め、バグはその問いに、緩慢な動作で応える。影がゆっくりと自然な動作で腕らしきものを上げる。頭が狂いそうになるくらい濃密な瘴気が聖域を一瞬汚す。
 そして、その腕が詰問した男に向かって振り下ろされた。
 まるで力が入っていないように見える動作。果たして攻撃かどうか迷うような緩やかな振り。
 男が一瞬戸惑い、篭手のような物を付けた腕で防御体制を取った。それでも、対応できたことは褒めてやるべきだろう。その動作は悪意を除けばまるで撫でるかのような振りだ。冗談のようにしか思えない。一般人だったら攻撃かどうか判断しかねただろう。何もできずに立ち尽くすだろう。
 だが、結果的には防ぐという選択も間違いだった。男は避けるべきだった。回避はそれほど難しい事ではなかったはずだ。その動作は非常にゆっくりしたものだったのだから、後ろに引いてでも横に引いてでも避ける事ができたはずだ。その判断の間違いを後悔する間すらなく、男の身体に影の腕がめり込んだ。

 俺の眼は、全てを捉えていた。

 一瞬の後、爆発音に似た音が神殿を揺らす。






第四十四話【真なる悪意の話】









 血と肉片が数十メートル離れているこちらまで降り注いだ。
 そう言えばその勢いがどれだけのものだったのかわかるだろう。
 その一撃はテクニックも速度も鋭さもなかったが、間違いなく転生してから見た"最も重い"一撃だった。
 だが、しかしそれは別に状況が悪いというわけでもない。
 一人の馬鹿で勇敢な騎士の死は突然の乱入者にまだ僅かに動揺していた周囲の流れを静かに迅速に収めることになったのだから。

 あれは敵だ。奇襲ではなく、真っ向から一人の人間が死んだことにより、その事実が今はっきりと浸透したのだ。

 戦士にとって最も重要な資質はどれだけ迅速に正確な判断が出来るか、という事である。そして各国主達が連れてきた選りすぐりの護衛達にその資質が欠けているわけがない。そして国主達も、内心はともかく外に動揺を出すほど素人ではない。
 バグは、腕を振り下ろしたままの姿で彫刻のように静止している。あの凄まじい打撃が嘘だったかのように。
 その姿を見ても、もう誰一人として油断することはない。
 呼吸の音一つしない張り詰めた空気。

「何者かは知りませんが、片付けましょう」

 それを破るかのように何処からか響いた"片付ける"の声に反応し、速やかに剣や杖を持った者達が行動を開始した。
 それを合図とするかのように、バグもまた動きを見せる。

 思い切り腰を落とし跳躍。
 全身をバネに跳ね上がる黒い影。その速度は先ほどの動きとは打って変わって強靭かつ靭やか、獲物を刈取る獣の動きで最も早く近寄ってきた戦士に遅い掛かる。
 全身が影に覆われてるため、その挙動ははっきりとはわからない。形は人間、しかしその肉体の動きが読めないとなると、対処の難易度も跳ね上がる。まず、第一本当にそれが人間なのかまず疑問に思わざるをえない。骨格があり筋肉があり血の流れている人間か? 弱点は? 心臓や頭部を破壊すれば死ぬのか?人型の魔物など腐るほどいるのだ。昨日記憶の中からバグの姿を攫った俺くらいにしかその正体はわからない。その俺にしても、果たして人間の形をしていたそれが人間と同様の動きしか出来ないのかはわからない。バグの名の如くその正体は正しく未知だった。





 
 世界のバグerror-07<悪神>
 BreakenWindow
 LV850
 出現条件:

 周囲の人間の『徳』パラメーターが-10000以下
 それらの徳をリセットする事と引換に発生

 特性:
 悪意により成長する

 

 





 俺はどっかの国の偉い人の後ろで血しぶきに塗れた顔をぬぐい、心の中でそれの注意度を上げた。昨日の記憶から唯の人間に捉えられていたからその程度の存在だと思っていたが、どうやらそういうわけでもないようだ。攻撃のモーションはLvにしては遅かったが、まさかあれが全力というわけでもないだろう。少なくとも単純な攻撃力だけは警戒に値するもののように思われる。また、耐久も馬鹿にはならない。特に虚影骸世がきかなかったのが痛かった。少しずつ削るってのは性に合わないのだ。
 そして悪意が何を示すのか知らないが、十中八九碌でも無いものだろう。古今東西悪と名のつくものにまともなものがあった試しがない。

「な、なんですか……あれ」

「俺が知るわけないだろ。クリアと話してたらいきなりつっこんできたんだ」

 微妙に冷たい視線を向けてくるシルクに言い訳する。嘘ではない。見覚えが全くないわけでもないが。
 しかし酷い血の臭いだ。

 シルクの髪に付着した肉のかけらを指でつまむ。細かな血の霧は目に見えずとも確実に空気を犯していた。これは当分臭いが取れないかもしれない。別に俺としては構わないんだが、種族的な性質からかエルフ達は血の臭いが苦手なようで、血の臭いを振りまいていると露骨に嫌な顔をされたりするのだ。それは遠慮したかった。当分エルフはお預けかな。命令すれば抱けなくもないが現在比較的友好な関係にある彼女たちにそのような業を課すのも酷だろう。少なくとも念入りに身体を洗わないと。

 そんなどうでもいい事を考えながら、タイミングを見計らう。

 咆哮で空気が震える。

 バグが両腕をまるで子供のようにがむしゃらに振り回し、最も近くに立っていた者に突撃する。その動きは力強いが緩慢で、駆け出しの冒険者でも果たして当たるかどうかといったレベルだ。突撃もスピードはあるが、先程までの精巧さは見えなかった。強くなったり弱くなったり、ひどく歪つ。当然高価な武具に身を包んだ高レベルの戦士にそんな単純な攻撃が当たるわけもない。無造作に身体をちょっと傾けただけで、腕を躱す細身の騎士。自然生じる大きな隙に、剣をぶち込むこともできたはずなのに、殺意すら見せずバグを翻弄する。至極自然な動作で――緑色の外套がひらりひらりと静かに揺れた。通じないのにバグは攻撃を辞めない。結局バグはいくら強靭で速くても所詮ど素人だった。技術がない。攻撃はことごとくかわされる。重いが鈍重な打撃。当たらなければ意味がない。人外をも遥かに超えた強大なスペックにやたら稚拙な技能。KillingFieldと同じだ。

 緑の騎士の間合いを空け、残りの護衛たちが円陣を作る。数秒で出来る円陣。確かに成人男性程度の体格の一匹相手に全員でかかるのは得策ではない。

 バグの奴は囲まれるのを知りながら抜けようと試みすらしなかった。

 あのバグは確かに危険だがそれでもこれだけの数を相手にして蹴散らせるほどだとは思わない。能力はともかく数が違う。


 もはや、壇上の上から眺めても人ごみに隠れて顔くらいしか見えなかった。仕方ないので視界を上に飛ばす。
 LV800オーバーの魔人。こうも簡単に包囲されるとは何たる醜態。
 嘗て俺の中にあったLVと言う名の絶対神話はKillingFieldの件もあってとっくに崩壊している。それでも高いに越したことはないけどさ。

「案外簡単に決着が付きそうですね」

「全くだ」

 力はあるのに本当にもったいない。技術に力が追いついてない俺の真逆。全く持って忌々しい。忌々しい。
 これが本当の脳筋という奴じゃ……
 その時、ふいにバグの頭が揺れた。赤い視線が円陣をすり抜けこちらを刺す。無論飛ばした視界じゃなくこの二つの眼に。
 
 …………

「剣をよこせ」

 嫌な予感がする。

「何をするおつもりですか?」

「これをどうぞ」

 シルクが疑問を。クリアが剣を。
 ぼやぼやしてて命を失っても詰まらない。
 俺はシルクの疑問に答えず、クリアが渡してきた細身の剣を受け取り宙を軽く凪いだ。
 風を切る甲高い音。一閃二閃してピタリと止める。
 白銀色の刀身の細身の剣だ。リーチはそれほど高くない。どちらかと言うと、実用よりは観賞用に使われる事の多い華奢な剣だ。刃物というよりは針のように鋭い。
 魔術師だが決して剣を使えないわけでもない。なんたって親父は騎士の一派の親玉なのだ。それなりの教育はされている。
 頑丈さより鋭さに重点を置いたレイピアなので強度的には不安だが、それでも飾りのようなカタチをしていてどうしてなかなかの業物のようだった。振ってみれば分かる。軽い。キレが違う。何だかは詳しく見てみないとわからないが魔法もかけられているようだし、素材も並の金属より遥かに硬い何かで出来ている。俺が与えたものじゃないから多分自分でどっかから調達したものだろう。そもそも、クリアが飾り物を腰に下げてるわけがない。これなら万が一あれと殺り合っても殺せるだろうか?
 じーっと何かを待っているかのようにこっちを見ている赤髪の少女を軽く一瞥して尋ねる。

「壊しても構わないな?」

「はい。なんなりとご自由にお使い下さい」

 感じる二つの視線。

 一つはクリアの物。

 そしてもう一つは――

 こちらを見るな。無礼者。

「降伏しなさい」

 馬鹿げた状況の中、降伏勧告が響く。
 その声の主はかの先程バグを翻弄していた緑の戦士。
 剣を床に打ち付ける音。小柄とは言え、身長よりも遥かに巨大なソードを床のプレートに打ち下ろす反動にも微塵も揺るがない。現在場を支配しているのは明らかにその騎士だった。人間ではない。LVも他の者達に比べて頭一つ分ほど(数十レベルほど)飛び抜けている。さもなくばその他の騎士達は彼女の独断を……囲いを作ってまでして降伏勧告を行う事を許すわけがない。よく思い出してみると初めの『片付けましょう』の声も彼女のもののようにも思える。深くベールのような物を纏っているので顔は見えないが、声と気配からして恐らく"雌"だろう。

ハイライダー。

 恐らくそれがあの雌の正体だ。
 久しぶりの同族だが声さえ聞けば分かる。伊達に魔王は張ってない。人と魔は見誤らないし、いくら魔族を毛嫌いしていてもその程度なら分かる。
 ハイライダーとは巨大な剣を持って生まれてくる亜人種である。そのすべてが剣客としての優れた資質を持ち、強靭で靭やかな肉体と熟達した技を持ち嘗て冒険者を散々恐れさせた。個体数がそれほど多くはなく、ネームバリューこそドラゴンやケンタウロスなどの有名所には今一歩及ばないがその技は決して侮れる物ではない。
 習性としてその身に纏うカラーにより個体の能力を決める傾向があり、記憶が正しければ緑は上から二番目に強い。
 何故何かに乗ってないのにライダーなのかは永遠の謎だ。まあ、いくら魔族とは言えずっと何かに乗っているというわけでもない。ハイライダーが何かから降りた姿があれなのだろう。

 この会合には人族領に住む各国の王と、魔族側からの代表者が出席する。恐らくそれの護衛だろう。
 しかし三千年、転生してから見聞きして知ってはいたが、本当に魔族も丸くなったものだ。狩猟本能がやたら強いはずの戦闘民族が追い詰めた相手に降伏勧告を行うとは。

 俺ならすぐに殺すけど、どうやらそいつはバグを殺すつもりはないらしい。先程の動きからしてまだまだ余力は残しているのだろう。鋭くもあり美しくもある剣戟は決して手を抜いていないわけではないのだろうが、明らかに殺気が不足していた。降伏宣告など聞くわけがないのに、じわじわと削るだけで即殺する気配がない、。

 そう、あれが降伏宣告など聞くわけがない。
 何故ならその赤い瞳は先ほどから間違いなく肉の壁に隠れる俺を捉えているのだから。
 隙あらばこちらを襲ってくるだろうそれは獲物を見る瞳だった。なめられたもんだ。


 そして、その時が来た。

 緑の騎士の剣が大きく翻り、そのバグに今まで最も大きな傷――袈裟懸けに切り裂こうとしたその瞬間、奴のスピードが増した。今までとは違う速度に注力した一瞬。防御も考えず唯その豪腕を振るうだけだった赤子のようなバグが一気にその身に滑らか動きを宿す。今まではあえて当てていなかった刃がぎりぎりで当たらない。まるで別人が乗り移ったかのような動きに鈍る技の周囲のその一瞬をつき、今までほとんど使っていなかった足が床を穿った。
 砲撃。突然の突進に惑わされた戦士が一歩下がったその隙間を抜い、それは腕を組んで驀進する。ハイライダーの剣が翻り僅かに背中を傷つけたが、その足は止まらない。

 目標は何処か。考えるまでもない。その巨体は、その眼は、その殺意はまっすぐにこちらを向いている。僅か数十メートル。この程度の距離あの勢いを見ればないに等しい。

 んー……こんなにしつこく襲われるような事何かしたかな?


「クリア、シルク、KillingField、下がれ」

 まあ構っている時間はない。俺があれを避けて、その結果あれが誰かにぶつかったら恐らく少女の華奢な身体など塵も残らない。とりあえず向かってくるそれに、俺は今まで隠れていたどっかのお偉いさんを放り投げた。放り投げたと言っても、そんなあからさまにやったわけではなく、ちょっと足を引っ掛けただけだがその身体は狙い違わずバグに向かって崩れ落ち、そして衝突した瞬間パッと散った。まるで花火みたいに儚くそして無駄に美しく、誰かが「あっ」と声を上げる。

 一瞬動きが鈍っただけで、バグはそのまま加速する。飛沫の中を影が走る。今更レイピアに強化をかけるのを忘れたことを思い出したが、今更どうすることも出来ない。バグがぶつかる直前に右に避けた。勢いは凄まじくても所詮は直線の動き。覚悟さえしていれば恐れる必要はない。当たらなくても受ける凄まじい衝撃を耐える。レイピアの白が間違いなく頭があるであろう場所を凪いだ。

 轟音。

 戦況判断

 ……手応えがない。いや、あり過ぎた。

 手元を見るとレイピアの刀身が消え失せている。やはり強度が足りなかったか。相手の勢いを利用したはいいが、刀身が吹っ飛んだらしい。柄だけ持った手がしびれている。

 空振りし床に転がったバグが緩慢な動きでこちらに向き直る。
 固い。特に魔術で補正が掛かっている気配がないのにレベルだけでここまでの肉体スペック。ステータスにある憎悪による成長率とは果たして何なのか俺にはわからないがこっちからあっちに対する憎悪ではなくあっちからこっちに対する憎悪だったらしい。恨まれる筋合いはなかったが、難儀だった。
 

「シーン様! 上です!」

 分かっている。
 一瞬で移動したバグ。
 軽く後ろに下がり、上からの襲撃を避ける。衝撃で飛散した礫を躱す。唯の愚直な突進だ。目をつぶっても避けられる。物理法則を微妙に無視している動きだが、そういう奴らを腐るほど見てきたので動揺はしない。

「光の衣」

 ないよりはあった方がいい鎧を纏う。奴の速度は遅い。まだ俺にも耐え切れる。だが、その速度が時間がたつにつれ微妙に上がっていくのが嫌だった。空振った時、十センチ空いていた間隔が七センチになる。いちいち相手の速度を計算し直さなければならない。

 振り下ろされた右手を躱し、薙ぎ払われた左手を受け止める。
 光の衣で上げてる防御を貫きミシリと音を立てる右腕。骨に罅が入ったか。Lv差は相当あるにも関わらず、やはり魔法職では荷が重い。だがそれだけだ。吹っ飛ばされかけた身体を根性で耐え切る。まずいな。このまま戯れていても決着はつかない。

 助けはまだこない。いや、この間に入ってくることは不可能だ。動きは遅いとは言え緩慢じゃない。ましてや相手の一撃はこちらの命を刹那の瞬間に奪い取る事も出来る。そもそも、俺の連れてきた護衛の死神は呆然とこちらを見ているだけで助けようという気にもならないらしい。
 武器だ。足りないのは武器だった。鋭さはいい。リーチも構わない。撲殺でも斬殺でもいいからこいつを殺しきれる頑丈な武具がほしい。鎗でも剣でもトンファーでもヌンチャクでも武器の種類は問わん。こいつを素手で殺すのは骨が折れる。こういう時、魔王だった頃は――と思うのだ。今あの杖はどこにあるんだろうか?

 ……あ

 その時、天啓が舞い降りた。。
 そうだ、KillingFieldの鎌ならこいつの首も狩れるかもしれない。
 飽きもせずに腕を振り下ろしてくるバグを思い切り上に蹴りつける。
 一直線に天井につっこんだそれを見ながら、KillingFieldの元に行った。

「鎌を貸してくれ」

「…………」

 バグは頭が天井にめり込んでいる。
 しかし、全力で蹴り飛ばしたから相当な衝撃だったはずだが効いている様子はない。
 相当HPが高いのか。それとも防御力が高いのか。
 何にせよ力が足りん。もうちょっと運動した方がいいのかなあ。

「ほら早く、早く」

「…………」

 KillingFieldがぐずぐずしているうちにバグの視線が俺にがっちりあう。
 鎌はKillingFieldの持っているPocketの中に入っている。リングの中にある物は基本的に装着者しか取り出すことはできない。

「あーあ。またふっ飛ばさなきゃならないのか」

「…………ッ」

 そこまで言って、やっとKillingFieldの手の中に大鎌が現れた。KillingFieldの身長ほどもある柄に巨大な黒の三日月。
 バグはもう襲撃の準備を終えている。腕一本で天井をつかみ、ぶら下がるような形。飛ばしていた視界がその様子、その動きを細部にまで捉えていた。万全を期すなら受け取ってる暇はない。もう一回吹き飛ばしてその隙に首を狩る事にしよう。
 そんな事を考えていると、

 ふいに空気が止まった。"張り詰める"ではなく完全に静止する。

 真っ赤に爛々と光る眼が黒を見ていた。
 明るい紫色の瞳が黒を見ていた。
 笑みはない。殺意もない。完全に無表情。死神は悪神を見ていた。悪神は死神を見ていた。

 そして――
 破顔。
 巨大な鎌がゆらゆらと揺れる。KillingFieldの顔が何故か真っ赤に蒸気する。

 ささっと鎌を奪って動きを止めてるバグの首を狩れば宴も終焉するが、あえて空気を読んだ。
 なんとなく、やめといたほうが良さそうだ。

 悪神が天井を蹴る。
 方向を変え、KillingFieldに向かって飛んだ。

 KillingFieldが鎌をぐるっと一回転させる。
 そして、一度ちらりとこちらを見て、
 顔を赤らめたまま鎌を――
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