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第四十七話:黒紫色の理想


 俺は強い。
 類まれなLVと無尽蔵の魔力、思慮深さは元魔王なんて肩書きはなくても圧倒的だ。無敵だ。
 人になって能力が落ちたなんてそれこそほとんど問題にもならないくらいに。

 だからこそ、自分の弱点はわかっていた。

 シーン・ルートクレイシアの弱点はその本体と比べて周囲が余りにも脆弱なことである。
 まーこの俺と比べるなんてそれこそ比べる対象が悪いと言われたらそれまでだが、それでもそれは確かに俺を攻略しようとするならば真っ先に狙われるべき穴だった。

 この世にはご都合主義なんてない。
 人間ってのはつまらないもので、優れているというのはそれだけで他者から嫉妬を抱かれる一因となりうるものだ。
 弱点がわかっているにもかかわらず対策を立てないなんてのは、それはもう愚かだとかそういう問題以前の話である。

 故に、俺が俺の奴隷達に仕掛けていたチョーカー(発信機)から送られてきた危険信号をキャッチしたのは当然だし、俺がそれを受けて即座に救出に向かうのも必然であった。




第四十七話【魔眼と黒衣の王の話】


「何を言ってるんですかぁ? あんなのただの挨拶じゃないですかぁ」

 何を考えているのか、くすくす笑いながら少女が言う。
 私の逃がさない宣言を聞いても、全くその態度が変わることはなかった。その態度が酷く不気味だった。
 燭台の炎がゆらゆらと揺れる。

「逃げるつもりなんてありませんよぉ、だって私――シーン・ルートクレイシアより強いですからぁ」

 何を言われたのかすぐには理解できなかった。
 十数秒おいて、ようやくその言葉が意味を伴って頭の中に入ってくる。

 強い? あの男より、この繊細そうな少女の方が?

「見た目で判断するのは悪いクセだと思うんですけどねぇ、やめたほうがいいですよぉ、それ。大体、貴女見たことないんじゃないですかぁ? シーン・ルートクレイシアの戦っている所を」

「え……?」

 そう言われて、初めて私は自分がシーン様の強さというのを見たことがなかったことに気づいた。
 噂ではよく聞いていた。
 曰く、類まれな力を持つ魔術師。その魔力は山を削り海を割り、数万の悪魔の群れを一瞬で消滅せしめるほどだと言う。
 言動が噂通りだったため、その実力についても疑いを抱いていなかったがなかったが、よく考えてみれば実際に見たことないのに信じていたというのもおかしな話だ。いや、シーン様はいるだけでその実力を確信されるようなそういう類の人間だった。

「安心してください。今日の所は何もするつもりはありませんからぁ。今日はちょっと顔を見に来ただけですよぉ」

「…………」

 掴みどころのない口調が私の感情を揺さぶる。
 嘘をついているのか、それともついていないのか、にこにこした表情からは何も読み取れない。
 話している内容からするに、今日は何もやるつもりはないようだが、それもどうだかわからない。私にわかる事は、この少女がその内実はどうあれ、シーン様の障害になりうる存在だという事だ。

「で、クリステル様ぁ、シーン様の所に案内していただけますかぁ?」

「…………」

 どうすべきか。
 笑みを崩さない少女。時間だけが過ぎていく。
 本当だったら案内すべきじゃない。いや、その事については、判断する事さえ本来なら私には許されていないはずだ。この場で私はただの何の顕現も持たない奴隷でしかない。もっと上の立場の人間――シルクかアンジェロに報告すべきだ。
 だがしかし、今目を離すのはとてつもなく危険な気がした。
 何をやられたかわからないが、この少女が私に対して何らかの攻撃を仕掛けてきたのは間違いないのだ。

「そんな警戒しないでくださいよぉ。何もしませんってば。何らかの攻撃だなんて……ただ楽しくお喋りしただけじゃないですかぁ」

「……?」

 ふと何か違和感を感じた。
 噛み合っていないようで噛み合っている奇妙な会話。何もかもを見透かすように私を覗きこむ緑色の瞳。
 何かを見落としている気がするが、何を見落としているのかわからない。

「もういいですかぁ? どうも予想外にうまくいかないですし……やっぱり帰っちゃいましょうかぁ。ねぇ、どうしたらいいと思います?」

「そんなわざわざ会いに来てくれたのに何もせずに帰るなんてそりゃないだろ。クリステルだけじゃなく、俺とも楽しくお喋りしようじゃないか」

 何の前触れもなく唐突に、第三者の声が聞こえた。
 エルフとしての優れた聴覚を持ってしても聞こえづらいひたひたという異常に小さい足音がこちらに向かってやってくる。
 同時に鼻を刺す異臭を感じる。滅多に嗅ぐ事はない――でも常に身近にある匂い。

 ――血の臭いだ。

「……先程ご飯を持って行くついでに挨拶しましたけどぉ?」

「悪いな。忙しかったもんで全く気づかなかった」

 今まさに話にあがっていた、シーン・ルートクレイシアがそこにはいた。
 漆黒の髪にそれと同じ色の瞳。黒の外套といつも通り全身黒ずくめの格好。顔には何の表情も張り付いてはいない。ぞっとするほどの怜悧な顔だ。そうだ、この冷酷な雰囲気を見て、誰がこの男が弱いなどと考えようか。
 少女の笑顔が初めて一瞬陰る。だがそれはずっと見ていなければ気づかなかったであろう程度の本当に一瞬だ。

「発信機ですかぁ? 全然気が付きませんでしたぁ。まさか……本人にも教えてないなんて、完全に予想外ですよぉ」

「知らせる必要がないからな。クリステル、よくやった。ゆっくり身体を休ませるといい」

 頭を撫でられ、シーン様が私を押しのけて前に出る。
 そこで初めて自分が緊張のあまり疲労している事に気づいた。足元がふらつき、壁に背をつけた。

「……私はもうお話したい事なんてないんですけどぉ? 何の話をしましょうかぁ?」

「馬鹿か。まずは会ったら自己紹介だろ。俺の名前はシーン・ルートクレイシア。ルートクレイシアの王だ」

 握手するかのように右腕を出すシーン様。

「……まぁいいですけどぉ。私の名前はリトリ・サダニウムスですぅ。以後、お見知りおきを」

 リトリ・サダニウムスと名乗った少女も右腕を出し、握手を交わす。
 傍から見ればただ自己紹介をしているようにしか見えないが、少女はポーカーフェイスの不法侵入者であり少年は音に聞こえるルートクレイシアの神童だ。その内心を推し量る術はない。

「ではまずは取り敢えず用事を伺おうか。リトリ殿? クリステルを傷つけた点も含めてじっくり話を伺おうじゃないか」

「……あのぉ、その前に一つだけお願いがあるんですけどいいですかぁ?」

「何か?」

 表情を全く変えずに平然と会話するシーン様に対して、リトリ・サダニウムスの笑みは徐々にこわばったものになっていた。理由はわからない。ただ会話しているだけだ。

「……秘密だったんですけどぉ、私実は視線を合わせた者の心の中を読む眼を持っているんですよぉ。どんなに隠そうとしても眼を合わせただけでその内心がはっきりわかるんですよねー。『新緑の魔眼』って言うんですけどぉ、聞いたことあります?」

「聞いたことないな。で、それが何か?」

「っ!? ……で、さっきから私貴方と視線を交わしているんですけどぉ、信じられないですよねぇ。心を読めるって言ってるのに視線を外さないのぉ。あのですねぇ、単刀直入にお願いしますと……頭の中で、私を犯すの、やめてもらえます?」

「俺の勝手だ」

 心を読める魔眼。
 その信じがたい単語も、次のリトリ・サダニウムスの言葉の前に霞んでしまった。
 そして、その言葉も更に次のシーン様の断言に露と消える。
 私は、ただただ隅のほうで小さくなって二人の魔人の方に聞き耳を立てることしかできなかった。

「あのですねぇ、シーン様ぁ、さっき私とあった時からずっと私の事犯し続けてるんですよねぇ。初めてですよぉ、殿方の劣情は理解しているつもりでしたがぁ、最初に眼を合わせた時からずっと、ですからねぇ。ほんっとうに嫌なんですよぉ。何で、そんなに平然と、そんな事、考えられるんですかぁ? 理解できないですよぉ。ああ、もう本当にやめてくださいよぉ。やらない、そんな事やらないですからぁ。魔眼をそんな使い方しないですってぇ! もうっ!」

「何と恐ろしい力だ……心のなかがすべて筒抜けとはここまで恐ろしいものだったなんて……」

「思ってませんよね? そんな事思ってませんよね? ああ、もう勘弁してくださいよぉ。無理、無理ですからぁ。私の方が強いんですよぉ? そんな力づくなんてうまくいくわけないでしょう?」

「勝利するのに……力なんていらない。人間なんだからまずは話し合わないと」

「無理無理、無理ですからぁ。交渉でなんとかなるレベルじゃないですからそれ。もうやだぁ。大体……わかってるんですかぁ? 私と眼をあわせているって事は、貴方の秘密は全て筒抜けなんですよぉ?」

「バレて困る秘密なんて存在しない」

 くだらない会話が耳に入ってくる。もう嫌だというのはこっちのセリフだ。

「シーン様ぁ、あなた……何と魔王の転生体ですね!」

「ああ」

「っ……わざわざ人間の勇者に殺害させて転生までして狙っている事はなんと……え……ええ? 何でこんな事のために? 信じられないですよぉ。もう!」

「言ってみろよ。リトリ・サダニウムス。俺の偉大な目的を言ってみろ」

「"シーン様ぁ、かわいそうだとは思わないんですかぁ? あんなに貴方を慕っていた魔族の部下達を見捨てて、くだらない目的の為に転生までして。彼らは、心底、シーン様の事を慕っていたというのに……。罪悪感、沸きませんか? 沸きますよねぇ?"」

「え? 何が?」
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